劇場公開日 2020年2月21日

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「キャリアの分岐点の3人が同じエレベーターに!」スキャンダル うそつきカモメさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5キャリアの分岐点の3人が同じエレベーターに!

2022年6月24日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

セクハラに限らず、パワハラにしろマタハラにしろ、特有の立場をめぐる嫌がらせは後を絶たない。それを映画にして娯楽性が生まれるのかどうか、少しの疑問と期待を抱き、映画館へ。見終わった感想は嫌悪感の共有と、軽い勝利、そして彼女たちに深い同情と、わずかの後悔という複雑さだった。

金にものを言わせて、周囲を自分の意のままに操るなんて許されない。狭義のテーマとしてはストレートにそう伝わってくる主張が、もっと深いところで人により受け取り方が違ってくる。そのことがよく考えられた脚本に、俳優たちの志の高さがバチバチとぶつかり合うようなセリフの応酬。一瞬でも自分が彼の業界に身を置いたような錯覚に陥り、彼女たちに同情し、嫉妬し、怒りが収まったような、収まらないような気分だ。

まあ、いろんなことを感じる映画だと思う。

たまたま美人に生まれついた女性は、自分を磨き上げ勉強しているうちに、足の綺麗さや上司に気に入られる術を身に着け、歴代の先輩たちが築いてきたやり方を自然に踏襲する。ちょうどキャリアの分岐点にある女性が一台のエレベーターで鉢合わせになるシーンは女優それぞれと重なって強烈なヴィジュアルを突きつける。

女優としてやや下り坂のニコール・キッドマンは、ナチュラルメイクで汗染みの浮かんだTシャツ姿をおそらく映画で初めて見せたんじゃなかろうか。役柄にぴったりはまっている。マーゴット・ロビーは主演作も控え、日の出の勢いの大活躍。もちろん才能に裏打ちされて今の人気を勝ち取ったものだが、そこに至るまでにそれなりの理不尽な要求に耐えてきたことが伺える表情は、女優魂みたいなものを感じさせる。

そして、シャーリーズ・セロン。プロデューサーも兼ねる彼女は一段上からこの映画を調整して回っている。いろんな人に気を遣う立場から、きっと学んだことを生かしてこの役に投入している。その3人がそのままの立場でエレベーターに乗り合わせるのだ。これは予告編で見たときからただ事ではない雰囲気が伝わってきた。

見ごたえのあるいい映画だったと思う。

最後に、特殊メイクについて。アカデミーをまたしても席巻したカズ・ヒロには、ワタシは何の感動もない。むしろ彼女の顔が変わってしまって、わずかにしぐさや姿勢でのみセロンを認識できるほどの出来栄えにがっかりした。遊園地の着ぐるみの中に、仮に超のつく有名人が入っていたとして、「今日のガーフィーは、特別キレがあったね」なんて評価はしても、「誰が入ってたの?」なんて思う人はいないからだ。

『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』で、大好きなゲイリー・オールドマンの変わり果てた姿に落胆した。別の俳優が演じたほうが良かった。原型が残っていないほど、オールドマンのにおいが消えていた。『バイス』では、クリスチャン・ベールが太って、髪を抜いてまでチェイニー副大統領そっくりに変身し、これまた各映画賞を総なめ。(まあ、カズ・ヒロの仕事ではないが)実は、その外見はコメディアンのチェビー・チェイスの現在の姿にそっくりなのだ。どうして彼にオファーしなかったのか。

話が逸れてしまったが、ロジャー・エイルズを演じたジョン・リスゴーは俳優としてのキャリアは確固たるもの。原型を残しつつ主に憎たらしさと嫌悪のキャラクターを演じきった。ルパート・マードックを演じたマルコム・マクダウェルも重鎮。この二人は実在の人物を演じているが、しっかり自分のにおいを残している。写真を見比べてみても、全然似ていない。

俳優が、原型の残らないメイクを施していくら怪演したとて、評価されること自体が異常なのだ。かつてダース・ベイダーを演じたデビッド・プラウズはその声も、顔も映画には残していない。ジョージ・ルーカスによってそのにおいを消されてしまった俳優の一人だ。しかし、彼がフォースを使って離れた人物の首を締めあげる演技は誰のものでもない。彼自身のパフォーマンスだ。全く評価されていないが。

なのでシャーリーズ・セロンの特殊メイクには実はがっかりした。アカデミーの壇上でトム・ハンクスが彼女の変身ぶりをジョークのネタにしたほどだから、俳優たちにもいろいろと思惑があったはず。彼女のキャリアと立場と人気があって初めて出来る裏ワザに過ぎない。

2020.2.24

うそつきカモメ