「高齢化社会の現状を描いた秀作」老後の資金がありません! ハルヒマンさんの映画レビュー(感想・評価)
高齢化社会の現状を描いた秀作
予想していたより面白かったというのが正直なところだ。50代の夫婦が直面する問題を取り上げてドラマに仕立てており、身につまされる場面も多くあった。例えば、親の介護、親の葬儀、子供の結婚、失業、住宅ローンなど。葬儀は一過性のものだからまだよいが、介護となれば継続的に手も金もかかる。定年後も住宅ローンの支払いが続けば負担が大きい。映画の主人公は、会社が倒産し、退職金まで消滅したのだから計算が狂ってしまったのである。
老後に必要な資金は、2千万円とか3千万円とか、あるいはそれ以上だとか言われているが、それぞれに事情の違いがあり、また希望する生活水準も違うので一概には言えないだろう。慎ましい生活であっても年金プラス10万円程度かかるとして、年間120万円。それを20年続ければ2400万円である。突発的な出費も考えると、やはり3千万円程度が目安になるのではないか。
主人公の場合、親の面倒は妹夫婦に見てもらえるようになり、新しい職が見つかり、家を売却してローンを完済し、グループホームで生活するようになった。かなりなハッピーエンドであるが、不安なしとまでは言えないだろう。しかし、この映画の観客にしてみれば、絶望的な状態で終わるのは心苦しい限りであるから、こういう終わり方が良かったのだろう。
これは推測だが、貯えが全くなく不安だらけの人はこの映画を見ようとは思わないだろう。また、十分に余裕のある人も関心が薄かろう。観るのは、ぎりぎり余裕があって自分は何とかなるだろうと思っている人たちではないか。だから落ち着いて観ていられるのである。
最後に、草笛光子は若々しく演技もしっかりしていて感心した。エンディング近くの歌も素晴らしかった。高齢の観客は励まされたのではないだろうか。