ステップ : 特集
“父親”山田孝之の奮闘と幸福が、どこまでも染み渡る感動作!
でも…世のママさんたちは怒ってます! 賛否両論!? その理由って…何で!?
日本を代表する俳優の1人である山田孝之が、「ステップ」(7月17日から全国公開)で初めてシングルファザー役に挑んでいます。たどたどしく、悩みながらも、一所懸命に娘を育てる主人公・健一の姿を見ると、心の隅々に感動が染み渡っていきます。
これはいい映画だ……。そう感じたのですが、一方で、ふと疑問がわいてきます。世のパパたちはともかく、ママたちはどう思うんでしょう? そこで編集部内で、子育て中のママを集めて座談会を開いてみました。
結論から言いますと、「怒ってますよ!」と言われました。結構な剣幕で。
シングルファザー・山田孝之の“普通の熱演”が染みる!
全ての人々の記憶を幸せで包み込む感動作
まずは作品の概要や、見どころをご紹介。「流星ワゴン」「疾走」「その日のまえに」「とんび」など、数多くの作品が映像化されている重松清による同名小説が原作です。
結婚3年目、30歳という若さで妻の朋子に先立たれた健一(山田)。2歳の娘・美紀の保育園から小学校卒業までの10年間、さまざまな壁にぶつかりながらも、亡き妻を思いながら、健一はゆっくりと歩みを進めていく――。
◆今度の山田孝之は…“フツー”! でもそれが、1周回って最高すぎる!
あるときは、魔物を討伐する勇者。あるときは、血も涙もない闇金業者。そしてまたあるときは、「ナイスですね」を口癖に狂乱の時代を駆け抜けた“帝王”。近年はエキセントリックな役どころが多かった山田ですが、本作では“等身大の父親”を熱演しています。
一言でいえば、“フツーの男性”を普通に演じています。しかしながら、それが事件的に良すぎるんです……!
健一は仕事をしながら美紀の保育園の送り迎えをし、ごはんを作ったりお風呂に入れたり、寝かしつけに格闘したり……子育ての“当たり前だけど、とてもハードな毎日”を送っています。演じる山田の芝居はどこまでも自然体で、ふとこぼれる笑顔を見ると、見守るこっちにも幸せがじわっと広がってきます。
でも、ときには「もう、ダメかもしれない」と弱音を吐いたり。にじみ出る切実な感情を受け、観客はきっと、彼を応援したくなるはずです。
◆子育て世代だけじゃない!記憶を刺激するリアルが、最高純度で詰まっている
とはいえ、子育て世代だけが感動できる、というわけではありません。あらゆる世代の人々が心動かされるはず。それは、さまざまな人の記憶を強烈に刺激する“リアル”が、最高純度で詰まっているからです。
どんな人にもドラマがあって、どんな家族にだって“ステップ”がある。子どもがいるとかいないとか、結婚しているとかいないとか、関係ありません。なぜか“あなたの記憶”を刺激して、“あのとき”を思い出してしまう。そして気づけば、頬を温かい涙が伝っている――。
本作は、そんな不思議な映画なんです。
でも、子育て中のママたちは怒ってます!
編集部で座談会を開いたら…賛否噴出、怒り心頭!? どえらいことになった
……と、ここまで書いてきた筆者は、1歳の息子を持つ男性記者です。冒頭に記したとおり、「ママたちはどう感じるんだろう?」と疑問に思ったため、急遽、編集部内で座談会を開くことにしました。2人のママさんに本編を鑑賞してもらい、話を聞きました。
参加者:パパ記者O(筆者/妻と1歳男児の3人暮らし)、ママ編集A(夫と2歳女児&7歳女児の4人暮らし)、ママ編集S(夫と小学3年生男児の3人暮らし)
◆ママたちが怒っている理由は?
パパO:今日はよろしくお願いします。まずは作品の感想から伺いたいのですが、いかがでしたか?
ママA:ある日突然奥さんが亡くなって、健一は1人で子育てしなければいけなくて……というか気になったのは、正直、子ども(劇中の美紀)が良い子過ぎますよ!
パパO:あれ、なんか怒ってる!?
ママA:怒ってますよ! 男性目線だと山田孝之さんに感情移入すると思いますが、母親目線だと、どうしても子どもの思いにフォーカスしちゃうんです。パパが頑張っているのはわかりますが、子どもがいい子過ぎると、ママとしてはちょっと心配になっちゃいます。
ママS:うんうん。
ママA:娘が2人いる身としては、美紀ちゃんは感情を押し殺しているようにも見えるんです。保育園に行く初日から、自分で靴を履いてベビーカーに乗って「さあ行こう!」って感じじゃないですか。この子はパパのために無理しているんじゃないかな、と感じる瞬間が多くありました。
パパO:なるほど……。
ママS:私が感じたのは、「映画で描かれている健一の苦労は、ママたちにとっては当たり前の苦労」ということです。子育ては毎日が必死で、日々を何とか乗り越えている。それくらい大変なわけです。劇中の健一が「もうダメかもしれない」とつぶやくシーンがありますが、健一のやっていることは“多くのママにとっての日常”ですからね!
パパO:確かに、シングルファザーが主人公だから“特殊な状況”として映りますが、ママたちにとっては得てして「毎日そうだよ?」みたいなことが描かれている、と……。
◆でも、周囲のサポートは素晴らしい
ママA:とはいえ、健一は24時間365日の育児の多くを完全に1人でこなさないといけない。それは大変の極みだと思います……。
ママS:うん。男性女性問わず、ワンオペは普通に無理だと思う。
パパO:では、健一はどうして子育てを続けられたのでしょう?
ママA:周囲の手助けでしょうね。この映画では義理の両親や義兄夫婦ら、サポートが素晴らしかったと思います。描かれていないところでも、たくさん支えていたんだろうな、と。じゃないと、健一1人ではとても成り立たないですから。
ママS:やっぱり“みんなで育てる”、もっと言うと“社会で子を育てる”必要性はあると思います。
ママA:劇中の健一に対し、同僚や上司も仕事を手伝ってくれたり、温かい言葉をかけてくれたりしていたじゃないですか。例えば両親が遠方の家庭だとか、会社の制度が整っていなかったり、病児保育を利用したり、家で留守番させたりしながら無理矢理仕事を続けている人と比べたら、健一はシングルファザーだとしても、恵まれている方かもしれません。
パパO:逆に言うと本作を通じて、これくらい周囲のサポートがなければ、健やかな子育ては実現できない、ということもわかりますね。
◆共感する“あるある”がたくさん!
ママS:子育てあるあるは、すごく描かれていましたね。
ママA:あるある! 特に“育休明けあるある”、ありましたね。仕事を慌てて終わらせて、「もう無理かも」と半泣きになりながら保育園に駆け込んで迎えに行くのとか、超リアルでしたね(笑)。
パパO:健一がほかの人に申し訳なさそうに、定時退社するシーンが度々出てきますね。
ママS:あったあった(笑)。育休明けに必ず通る道ですよね。
ママA:最初は同僚に「ごめん!」と仕事を任せて、保育園に迎えに行くんですが、それもだんだん申し訳なくなって、自分で仕事を抱えてパンクして。迎えに行くのが遅くなり、さらに自己嫌悪、みたいな。同僚にも子どもにも、いろんな申し訳なさで板挟みになるんです。
ママS:申し訳なさから、何度も枕を涙で濡らしたりするんです(笑)。で、ある時、気がつく。「あ、自分が無理すると、しわ寄せは子どもに行くんだ……」と。
ママA:そう! 優先順位は「やっぱり子ども」だと悟って、そのためにはどうするかを考えるようになるんです。「ステップ」はそこがリアルに描かれていて、非常に良かったと思います。劇中の健一は、営業部長から何度も「営業に戻ってこい」と誘われますが、頑なに断っていたじゃないですか。子どもを優先することとは、どういうことなのか。そんなことが、パパが共感できるよう、リアルに描かれていたと思います。
ママS:あと細かいですが、健一が2歳の美紀ちゃんとの夕飯で、ごはんをタッパーで出してたでしょ。ちゃんと1食分を冷凍してるんだなって(笑)。
ママA:(笑)。ちゃんと手作りっぽかったしね。2人で一緒にハンバーグを作ったりしてたしね。
◆妻への感謝と、「あのときはこうだったな」と感慨深くなる瞬間と…
パパO:あと、美紀ちゃんを寝かしつけた健一が、疲れからか居眠りしてしまうシーンがあるじゃないですか。うとうとしてしまい、洗濯機の終了音で目を覚ます。その間、数分の沈黙と、ピクリとも動かない山田孝之さんの横顔が映し出されます。あのシーンは“動き”がまったくないから、普通の映画だったら、もっと短くなっているか、丸々カットされているはずなんです。でも、この映画はあえてそこを残した。そこに、僕は本作の魂みたいなものを感じました。
ママA:子どもより先に親が寝落ちしちゃう、とか普通にありますからね(笑)。
ママS:子どもは保育園の昼寝とかで体力を温存しているから夜中も元気で、疲れ果てた親が絵本を読み聞かせながら泥のように寝てしまう……(笑)。この映画を見れば、奥さんの苦労がよくわかるかもしれない。
パパO:山田孝之さんも、本作出演を機に「妻への感謝が絶えなくなった」と言っていました。
ママS:それと、子どもが大きくなった時、小さいころに毎日通っていた道をふと振り返って、感慨深くなる、というのはとてもありますね。保育園の時にいつも通ってたな~、あんなに小さかったこの子が……と、息子が小学3年生になった今思いますね。
パパO: 健一がふと、「子育てのひとつの季節が終わったんだな」とつぶやくシーン、非常にグッときました。
ママA:映画を見る間、「あのときはこうだったな」と、感慨深くなる瞬間は非常に多かったです。そう考えるとこの映画、子育てが終わった世代にも、とても刺さるかもしれませんね。