「面白かった!……がッ!!」リチャード・ジュエル といぼさんの映画レビュー(感想・評価)
面白かった!……がッ!!
非常に面白い作品でありながら、「ここをこうしたらもっと良かったのに」という不完全燃焼が否めない作品になってしまっています。
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人一倍正義感の強い巨漢の男性である主人公リチャード・ジュエル。ある日野外ライブで警備員として仕事をしていたところ、ライブ会場近くで不審なリュックサックを発見し通報。それはパイプ爆弾であった。リチャードは率先して避難誘導を行うなどして爆弾事件の被害を抑えることに成功し、一躍ヒーローとして有名人となった。しかし英雄として持て囃されたのも束の間、とある新聞社が「FBIが第一発見者のリチャードを容疑者としてマークしている」と報道したことから事態は一変。リチャードは爆弾魔として世間の批判の的となってしまうのだった。
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こういった、メディアリンチやマスメディアの真実よりもエンタメを重視してしまう問題を描いた作品は数多くあります。
私が観た映画ではデビット・フィンチャー監督の「ゴーンガール」や、日本映画だと「白ゆき姫殺人事件」などがそれに当たりますね。
しかし今作「リチャード・ジュエル」はそれらの作品と違って「事実に基づいた映画」です。これが作品の肝でありながら、映画的な構成を制限してしまう足枷になっているような気がします。とても面白い作品なんですが、「こうすればもっと良いのに」と思ってしまうシーンが随所に見受けられます。
例えば、全ての発端となった新聞記事を書いた女性記者のナディアですが、騒動の元凶でもある彼女がリチャードが犯人ではないことを知り「なんてこと」と罪悪感を滲ませるシーンがあります。直前にリチャードと顧問弁護士のワトソンが新聞社に乗り込み「記事を訂正しろ!謝罪文を掲載しろ!」(うろ覚え)と叫ぶシーンがあったため、彼らの要望どおりに自らのプライドを捨てて記事の訂正と謝罪を行うのかと思いましたが、そのような描写は無し。あれだけリチャード家族の生活を脅かしながらも本人は何らお咎めを受けていないのです。これは観ていて不満が溜まります。
また、主人公のリチャード自身もかなり頭のおかしい人物として描かれているのも気になりました。ワトソンから「何も喋るな」と念を押されていた家宅捜索中にFBIとベラベラ喋るし「手伝おうか?」とか言うし、終盤のFBIとの直接対決のシーンでも廊下でうろちょろしてるし。多分リチャードの人間性や精神的な問題(ADHDとか?)を描くための描写なんだと思いますが、有罪になりたいのかと思うほどに余計なことばかりするリチャードを観ているととにかくイライラしてきますし、ラストシーンでリチャードの無罪が確定した時も、とてもじゃないけど「リチャード良かったね」とは思うことができませんでした。あそこまでリチャードを無能に描く必要性が分かりません。
最後にラストシーン。FBIに対してリチャードが「僕が犯人だという確たる証拠はあるんですか」と問うシーン。リチャードが無罪を勝ち取る決め手となったであろう重要なラストシーンなのですが、今ひとつ盛り上がりに欠けます。せっかくのラストシーンなのだから、もう少しどうにかならなかったのかという気になりました。
上記のような不満点も、単に「史実に基づいた映画だから」という理由で反論されちゃうんですけどね。「ここを改善して欲しかった」と思う私もいますし、「史実がこうなんだからこれで良い」と思う私もいます。なんとも収まりの悪い気持ちです。
多少の脚色は映画だから仕方ないとはいえ、史実を改変してしまう行為は劇中で徹底的に敵意をもって描かれていたFBIと同じになってしまいますから、映画製作陣としてはそこは絶対避けたいラインだったのでしょう。
私の個人的意見としては「めちゃくちゃ面白かったけど不完全燃焼」といった感じですが、前評判の通り十分楽しめる映画でしたので、オススメです。