「反撃のスニッカーズ」リチャード・ジュエル bloodtrailさんの映画レビュー(感想・評価)
反撃のスニッカーズ
イーストウッド監督らしく、過剰演出無しで生真面目に、丹念に作られているところが好き。悪く言うと、地味であっさりしてます。
物語の幕開けの場面では、傲慢・高圧的な人物として描写される弁護士ワトソン・ブライアントは、リチャードの本質を見抜く眼力を持っていました。職務に忠実で「そうあるべき」と思った事は、手を抜くことなく実行する男。スニッカーズのパッケージをゴミ箱から見つけたリチャードに、レーダーと渾名を付け親しくなって行きます。
この出会いが、FBIとメディアの犠牲になった母子に、反撃の力を与える事になります。
「第一発見者を装い、事件を起こすヒーロー願望者」のプロファイルや、あの大学学長からの告発がリチャードへの嫌疑の発端。なの?まじか?物証が無いFBI はリチャードの失言を誘導し、公訴の提起を目指す。もうね、このくだりが事実だとしたら、ファーック!だす。マジですか?この人達。犯罪者はFBI の方じゃん。
野心の塊がブラジャー着けて歩いている新聞記者キャシーはトム・ショウのリークを大々的に報じてしまい、その失点を「一刻も早い犯人逮捕」と言う実績で穴埋めしたいショウは、合理性をつないでいく捜査から完全に逸脱し、FBI が作ったシナリオに合致する事実の収集に走り始める。冤罪一直線だす!
公衆電話まで移動する時間が無い?共犯者がいたんだよ。しかもホモ達。
生真面目に職務遂行した結果も、やられた側から言わせりゃ「異常行動」。
夢の実現のために努力している生真面目さは「歪んだヒーロー願望」。
もう、捻じ曲げまくりです。
加熱するメディアのココロ無い報道、FBI の行き過ぎた捜査で痛めつけられたジュエル母子。リチャードとワトソンは、FBI のアトランタ支局での証言録取の場面で反撃を開始します。と思いきや。リチャードには、単に反撃する気持ち以上の動機が作用する。彼の純粋な法執行官としての正義感は、FBI の誤ったやり方が許せなかった。「証拠はあるのか?」は、自身の無罪の主張にあらず。そうしている間に、真犯人が次の犯行を実行したらどうする?コンサートの場面で、彼が見掛けた母娘。絶命していた母親。脳裏に焼き付いた凄惨な場面。リチャードは、単に正義感に突き動かされ、FBI に抗議する。
ここが、すごく良かった。刺さった。パイプ爆弾の釘じゃなくって、リチャードのハートが。
1994年の「松本サリン事件」でも、同様の出来事が起きました。妻も犠牲者となった河野義行氏は、第一発見者でありながら、長野県警から家宅捜査を受け、県警のリークを報道した信濃毎日新聞を皮切りに、全国主要紙・メディアは河野氏を犯人と決めつけた報道を延々と垂れ流しました。家宅捜索で見つかった農薬からサリンを生成したそうですが、当時のコメンテーターによると。作れるもんなら作ってよ。
結局、オウム真理教の施設周辺で証拠が発見され、更に1995年の地下鉄サリン事件の発生により、河野氏の潔白は確定的になります。
でね、謝罪があったかどうかですよ。
・公安委員長-->直接謝罪
・長野県警-->「遺憾の意の表明」
・メディア各社と関係者-->概ね謝罪するも、バックレるもの多数。
事実に基づかない誤った報道や、売り上げ・視聴率の為に扇動的な報道をしながら、知らん顔するのは、今も変わってない。と言うか、今の方が酷いw
役者さんが、渋くて、皆良かったです。
個人的にはベイビー・ドライバー以来のジョン・ハムとビリーブ以来のキャシー・ベイツ、エロくて下手な英語の演技がバカ受けだったナディア・ライトが嬉しかったです。と、サム・ロックウェルは、明日の晩、ジョジョでの再会が楽しみっす!
良かった。そこそこ。