劇場公開日 2021年2月11日

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「芳根京子の演技が圧巻」ファーストラヴ アラカンさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5芳根京子の演技が圧巻

2021年3月7日
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鑑賞方法:映画館

原作は未読である。心理士が主人公の映画ということで,心理士の資格を持つ娘と鑑賞した。娘は原作も読了しているらしい。主人公の資格は原作では「臨床心理士」なのだが,映画では「公認心理師」に変更されていると,両方持っている娘が言っていた。公認心理師の方が新しい資格なので,認知度を上げるためかも知れないとのことであった。臨床の方は「心理士」であるのに、公認の方は「心理師」で、宣教師や牧師に使われている「師」を使う資格である。ただ,主人公の行動は心理士というよりジャーナリストみたいで違和感があると娘は言っていた。

主人公は,個人的なトラウマを抱えながら心理士として活動しており,理解のある夫と同居している。主人公は,この夫の弟と過去に付き合っていた時期があり,現在弁護士として働いているその弟は,殺人事件の被告の弁護で主人公と一緒に働くことになる。その殺人事件とは,就活中の女子大生が自分の父親で芸術大学の教授を務める男を殺害したというもので,警察の尋問に対して犯行を認める一方,「動機は,そちらで適当に見つけて下さい」という前代未聞の返答をしたことで世間を騒がせている。容疑者の心の闇と主人公の抱えるトラウマが共鳴し合う描き方が興味を引いて物語が進行する。

良く出来てはいたものの,もっとおぞましいトラウマや心の闇もあったのではと思わせられた。また,容疑者は最初のうちはレクター博士のように異常人格なのでは?と思わせながら,後半ではごく普通の容疑者に落ち着いてしまっていたのに違和感を覚えた。容疑者は最後に話をひっくり返すような事実を語ってくれた方が映画としては面白いものになったと思う。その点が少し肩透かしだった。

役者は,何と言っても容疑者役の芳根京子が圧倒的に素晴らしかった。笑顔がとてもチャーミングな美形の役者さんなのだが,笑顔や美女オーラを完全に封印した演技は鳥肌もので,彼女の演技なしには成立しない映画だと思った。主人公の北川景子とその夫役の窪塚洋介,そしてその弟役が中村倫也というキャスティングは美形を並べた感があるが,延々と見せられる北川と中村の恋愛描写は全くと言っていいほど要らなかったのではないかと思われた。

音楽はイタリア人作曲家らしいが、今まで聞いたことのない作曲家であった。内省的な曲想はあまり押し付けがましいところがなくて好感が持てたが、囁き声で歌われる主題歌は嫌悪感を感じずにはいられなかった。もう一つ特筆すべきだったのは、堤幸彦監督らしさが全く目につかないところであった。これには本当に驚いたが、監督の個性をあまり表に出さない方が映画の真価が高まると判断したのかも知れず、恐らくその判断は正解だったと思われる。
(映像5+脚本4+役者5+音楽4+演出4)×4= 88 点。

アラカン