「アニメ版の補完をしつつ、作品として完成された劇場版」劇場版 少女☆歌劇 レヴュー・スタァライト といぼ:レビューが長い人さんの映画レビュー(感想・評価)
アニメ版の補完をしつつ、作品として完成された劇場版
2022年4月30日に初めて鑑賞し、あまりの面白さにその日のうちにAmazonでブルーレイをポチりました。
正直初見じゃ理解が追いつかなかったですが、「何かヤバい映画を観てしまった」ということだけは理解できました。『シンエヴァンゲリオン』を観た時と同じ感覚。
鑑賞後、自分なりに考察をしたりアニメを観直したり他の方のレビューを漁ったりしながら、頭の中で咀嚼を繰り返し、「やっぱりヤバい映画だった」と納得しました。これはヤバい映画です。
この映画の素晴らしさはいくつかありますが、大きく2点あります。
一つ目は、テレビアニメ版で不足していた描写を補完している点。二つ目は、綺麗に完結したアニメの後日談でありながら、こちらも映画として綺麗に完結している点です。
詳細は後述しますが、とにかく素晴らしい映画だったことは間違いありません。アニメ版と総集編にあたる『少女☆歌劇レヴュースタァライト ロンド・ロンド・ロンド』を鑑賞の上、本作をご覧ください。
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次世代の舞台人を育成する聖翔音楽学園。キリンが主催するオーディションから約1年が経過して3年生となった99期生たちは、卒業後の進路について各々が悩みや葛藤を抱えていた。そんな中、日本有数の劇団へ見学へ向かう途中、突然電車が変形し衣装が変わり、キリンがレヴューの開幕を宣言する。
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本作の素晴らしかった点としてアニメ版の不足した描写を補完している点と映画として綺麗に完結している点を挙げました。それについて、少し説明させてください。
私はアニメ版に対して描写が足りていないと感じる個所がいくつかありました。1クール12話という少ない尺の中で全てを描き切ることが難しかったというのは理解できるんですが、個人的な希望として「ここも描いてほしかったな」と感じた個所です。
具体的には3点。
・舞台創造科(B組)
・観客
・99期生の一部キャラクター(真矢・クロ・純那)
アニメでは裏方として脚本や小道具大道具などを担当するB組の描写があまりありません。全くないわけではないんですが、申し訳程度の描写になっていて、彼女らが前面に出てくるようなエピソードはありませんでした。
そして観客の描写。映画やドラマなどの映像作品と異なり、生身の人間が目の前で演じる舞台演劇というのは、演者だけでなく観客も一体となってその場を作り上げる印象が強いです。観客の存在は舞台にとって必要不可欠なんですが、アニメ版では観客の描写が全くありませんでしたね。強いて言えばキリンは観客のメタファーとして見えるシーンもありますけど、どちらかと言えばオーディションの主催者的なポジションに見受けられました。演劇なのに観客が不在なんです。
最後に、一部キャラクターの描写。特に真矢・クロディーヌ・純那ですね。双葉&香子コンビは1話使ってしっかり描かれていたのに対して、真矢クロコンビの描写はオーディション最終日のタッグマッチの描写で済まされてました。純那はアニメではほとんど良いところなしで、大きな見せ場があんまりないキャラクターでした。
本作は、そのようなアニメ版では不足していた描写がキッチリと描かれていて、アニメから入ったファンとしては納得感のある劇場版となっていました。特にB組がメインとなるエピソードや純那がメインとなるエピソードが私個人としては胸に刺さりました。また、個人的に推しキャラである天堂真矢と西條クロディーヌのぶつかり合いも最高でした。
そして、アニメ版で不足していた描写を補完するだけでなく、一本の映画としても非常にクオリティの高い作品でした。
今回描かれているのはアニメ版の後日談。3年生となった九九組のメンバーたちが、それぞれの進路について悩みと葛藤を抱くという内容です。
夢を叶えてその後どうすればいいのか分からない華恋。
舞台から離れて大学進学を考えている純那。
自分の夢のために動き始めた双葉。
個人的には純那とななのレヴューが刺さりました。
今までトップスターに憧れて眺めているだけだった星見純那。人一倍努力はするが、名前の通り「星(スター)を見ている」だけで、自身がスターになることはできなかった。進学を機に演劇から離れることを考えている彼女からは、今までしてきた死んでも主役になりたいという泥臭さが抜けてしまっていた。スターになれない自分に甘んじて、「次こそは」が口癖になっていた。そんな野心を失った努力家の彼女が対峙した相手が、主席の天堂真矢を凌ぐほどの圧倒的天才である大場なな。純那がななとの戦いを通じて、彼女が元来持っていたスターを目指す執念を思い出していく展開。この熱い展開は本当に素晴らしい。星見純那も大場ななも、このレヴューの中で成長し、舞台少女として一歩前進した様子がしっかりと描かれていました。
本作で描かれているテーマは、舞台版の2作目にあたる『少女☆歌劇レヴュースタァライト-The Live#2-』と近いものでしたね。舞台版はアマプラで配信されているので、本作を気に入った方は是非ご覧になっていただきたいです。
2年生の9人で演じたスタァライトのその後を描いた作品として、ここまで完成したものは他に考えられないんじゃないでしょうか。9人のキャラクターだけではなくB組のこともしっかり描き、一度綺麗に完結した作品の後日談としてキッチリ完結させている。
完全に偏見ですが、こういうアニメやドラマの後日談を描いた劇場版って、「好きなキャラが見られれば満足」っていう熱心なファン向けに蛇足のようなストーリーが展開されることが多い(具体例は敢えて出しません)んですが、本作は映像もストーリーも完璧に近いものに仕上がっていました。
テレビアニメの劇場版なのでアニメ観ていないと置いてかれる展開も結構ありますが、アニメ12話観る時間と労力を費やしてでも、鑑賞する価値のある映画でした。オススメです!!