「浅い描写と冗長な展開」ミッドナイトスワン はんざわさんの映画レビュー(感想・評価)
浅い描写と冗長な展開
普段は邦画(アニメーションを除く)を敬遠しがちなのだが、話題の映画ということで。
主役の演技は総じて悪くないと思う。しかし、凪沙(草彅剛)が一果の前で初めて涙を見せる場面には少し違和感があった。感情を堪えきれずに涙するという場面のはずが、台詞から妙に説明臭さを感じる。そもそも、小学生の頃から性同一性障害を自覚して生きる凪沙がそれだけを理由に号泣すること自体、少し考えにくい。失恋など何かきっかけがあれば話は別だが。「性的マイノリティの苦しみを描く」というコンセプトばかりが先行して、説得力を欠いてしまったシーンだと思う。
(その他にも、凪沙の面接のシーンなどは「性的マイノリティへのハラスメント」を描きたかったのだろうが、意図が見え見えで白ける。あのような台詞も現実には見られない。)
ストーリーがやや冗長に感じたのは、テーマを絞り切れていないことが原因だと思う。凪沙の性的マイノリティとしての葛藤、「母親」としての葛藤、一果の内面とバレエの成長、実親からの虐待、友人の死など、プロットが余りにも煩雑である。よって例えば、友人(恋人?)の自殺という重要な出来事も浅い描写に限られてしまっている。もう少し凪沙に焦点を絞って脚本作りをした方が内容も濃く、物語の軸が定まったのではないかと思う。脚本が役者の努力を殺してしまった、と言っても過言ではない。
ところで、タイの性転換手術に言及したレビューを見かけた。あれは手術の失敗というよりは凪沙の自暴自棄が原因ではと解釈した。手術後に一果を迎えに行くも、取り戻すことができず、生きる希望を見失ってしまったのだろう。もちろん一果には本当の理由を話さず「油断」と誤魔化したが。そう解釈すれば、あの時凪沙は絶望の中で病に伏していることになるが、それが予期せず一果と再会でき、一緒に最期を過ごすことができたのは、母として本望だっただろう。