劇場公開日 2020年9月25日

「母の強さを感じさせる草彅剛の熱演」ミッドナイトスワン ao-kさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5母の強さを感じさせる草彅剛の熱演

2020年11月14日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

序盤で凪沙が母親と電話するシーンがある。その口調から“彼女"がトランスジェンダーであることを母親にさえ隠している様子が伺える。この物語の主人公にとって男性、女性といった当たり前のような“区分”が当たり前ではないことに胸を締め付けられる。

セクシャルマイノリティの主人公が子どもを育てようとする物語は『チョコレートドーナツ』とも重なるが、凪沙が孤独な少女を変えていくのではなく、一果という少女との出会いが凪沙の“母性”をゆっくりと引き出していく点に本作の魅力はある。故に自身の中に抱える社会的な“男性”や親の前では“男”でいなければならないという違和感を徐々に取り除き、結果的に凪沙は“母”になろうとする。誰に頼るわけでもなく、あくまでも女手一つで一果を育てようと奮闘する母親としての強さを草彅剛は迫真の演技で示してくれる。とりわけ、夜の公園で凪沙が一果からバレエの振りを教わるシーンは二人の距離の縮まりを示す名場面だ。

孤独と孤独の出会い、母性の覚醒、縮まる距離、そして迎えるラスト。物語の起承転結も整っており、作品のメッセージ性も十分に伝わってくる。しかし、それゆえに周囲の人間模様の描き方の粗さが目立ってしまう。トランスジェンダーへの理解のなさ、露骨な差別的言動、ショークラブや風俗店の客の品のなさなど、過度にステレオタイプなのだ。時代背景が70年代、80年代であればまだ違和感は少なかったのかもしれないが、これが現代劇となると些か現実味が薄れてしまう。

主役の二人、そして真飛聖演じるバレエの先生との関係性など、主軸となる人間の描き方が良い故に、安易な“悪役”作りが作品の質を欠いてしまったように思えてしまった。しかし、ようやく日本でも「トランスジェンダー」という言葉が浸透してきた今、草彅剛というビッグネームを主演に迎えたメジャー作品として本作が公開されたという意味は大きい。

Ao-aO