「『37セカンズ』を観たあとでは、すべてが足らないように見えてしまいました。」ミッドナイトスワン グレシャムの法則さんの映画レビュー(感想・評価)
『37セカンズ』を観たあとでは、すべてが足らないように見えてしまいました。
性同一性障害、LBGTともに知識としては、かなり一般化してきましたが、そのような方と直接知り合ったり話をした経験がありません(相手の方が隠していて気が付かなかっただけかもしれませんが)。どんな人であれ、ひとりひとり考え方も個性も違うのが当たり前だし、ましてや個々の内面については何も知りません。それなのに、何かの折に『そのような人たち』となんの悪気もないまま、一括りにして語ってしまうことがあります。
社会やメディアにおいて構成人数が少ないカテゴリーに属する人たちについて、〝◯◯の世界の人たち〟と括ってしまうことが少なからずありますが、それは個々人の立場や背景を理解する労力に比べれば、一緒くたにした方が楽だからだと思います。
今年の2月に公開された映画『37セカンズ』はそんな楽をする思考法で凝り固まった私の脳ミソを破壊するほどに、ひとくくりにできない〝個人〟を描いていました。
主役は障害のある女性でしたが、終始『障害のある方達』という括り方とは無縁で、あくまでも(たまたま障害がある)ユマという個人の物語でした。
それでいて観賞後は、健常者の誰もが普段から持っているであろう『障害を持つ方々への潜在的な〝後ろめたさ〟のようなもの』があぶり出され、その向き合い方について、さりげなく、それでいて深く考えさせられたのでした。
『37セカンズ』と比べてしまうと、次のような点が不十分に見えてしまうのです。
•この映画は性同一性障害の方の中でも、かなり限定的な世界に生きる人たち、という描かれ方をしているために、大多数の鑑賞者にとって〝自分とは縁のない世界の物語〟という印象を与えかねない。
•あの手術をあれほどハイリスクなものとして描いてしまったゆえに、親が性同一性障害の子どもの心を理解してあげること(偏見との闘い)、子どもの身の安全を願うこと(親が子を思う気持ち)の狭間で親が葛藤する、というテーマが吹き飛んでしまう。
•女性=母性を強調したかったのだと思いますが、被虐待児である一果にとっての『安全基地』になるという意味では、性転換手術をしなくとも〝母〟的な存在としてとっくに寄り添えていました。なので、あの手術は、あのラストを迎えるために無理やりに入れた不自然な印象が残りました。
水川あさみさん演じる母親の立ち直り振り(少なくとも一果が自傷行為もかなりの程度まで治まり、バレエを続ける環境は守ることができた)もまったく触れられていないのは不可解でした。彼女も彼女なりに一果が中学を卒業するまでは、バレエ留学の奨学金を得られるほど支えてきた〝母親〟だったのに。
草彅剛さん始め、役者さんたちの奮闘は素晴らしいのに、人間性を掘り下げるテーマについて、少し雑に描いている印象が残りました。
コメントありがとうございます。
LGBTについて、日本は理解あるのか、寛容なのか。
オネェキャラがTVにでているのを見ると一見寛容そうですが、実際は欧米のようにそこまで深くは…とも。
でもこうやって、映画で個人の問題や物語として見ると心に響きます。
『チョコレート』『彼らが本気で編むときは、』『his』、そして本作…。
大切にしたい作品がまた一本増えました。
コメントありがとうございます🙇🏻♂️
「37セカンズ」と比べたら確かに偏見に溢れてますが、「37」は実際に当事者が演者なので、ほぼドキュメンタリーに近いですからリアリティの高さは勝てないですね😅
クリストフさん
コメントありがとうございます。
母親(水川あさみさん)が舞台で一果を抱きしめるのを目撃した時のインパクトが、嫉妬も含めた様々な感情を揺り動かしたということなのですね。
その通りですね!描き方が、ちょくちょく これ 偏見を助長しないのだろうか?と思うシーンが、ありましたね。そして、私も自分の家族だったらとずっと思いながら見てて…居た堪れない気になりました。自分の息子だったら…多分私も凪沙の母のような気持ちになったかもしれませんね。ですから あの終わり方は辛過ぎました!
レモンブルーさん、ありがとうございます。
レビューには書きませんでしたが、私はあの娼館らしき建物での描写も正直、違和感が強かったのです。
実態は知る由もないのですが、HIV感染予防の観点からは全く無防備に見えたので、偏見に繋がる予断を与えないだろうか、と心配しています。細かいことですが、凪沙やその仲間の誰かが自分の家族だったらと思うと痛みを伴う辛さを感じましたし、その類の痛み抜きでの感性で描いて欲しかったと思います。
グレシャムの法則さん 私も順行逆行に疲れて(笑)(3回観たら益々こんがらがってます😓)る頭で観たのですが、グレシャムの法則さんの仰っしゃっる事 本当に同感です!特にこの映画に足りないという事には全く共感します!性転換手術は必要なかったと思いましたし、凪沙の末路をあのように描くのは 実際のあのような立場におられる当事者や家族には残酷過ぎる気がして嫌悪感を持ちました。あのような結末でなくても 十分 凪沙と一果の愛や切なさは伝わるし、愛してもどうにもならない事(親子になれない)の苦しみも解るのだから そのまま 2人が、離れてもそれぞれを想いながら生き方をして行くというラストでは ダメだったのかな‥と思いながら、感動とは違う涙が、私の目を覆いました。
水川あさみの立ち直りはたしかに早すぎたのかなぁ~
俺もカールⅢ世さんと同じく、37セカンズは別物としてとらえるほうがよろしいかと思いますw
台風家族・・・ナイス!