「コン・ゲームというより家族愛ドラマ」コンフィデンスマンJP プリンセス編 keithKHさんの映画レビュー(感想・評価)
コン・ゲームというより家族愛ドラマ
映画興行会社において最も有難いのは、ヒット作がシリーズ化し安定的収入を上げ続けていくことです。同じ全体の枠組み、同じ配役、同じ美術やセットで使い回しが効き、非常に効率的で生産性が極めて高くなり、企業としては将に宝の山です。
アメコミ実写化等の最近のハリウッド映画は、その傾向が露骨に顕著ですが、1950-60年代の邦画は、各社共シリーズ物のオンパレードでした。プログラム・ピクチュアと称され、今ではワンパターンの悪しき事例としてネガティブに捉えられていますが、松竹を『男はつらいよ』が支えていたように、やはりヒット作のシリーズ化は今でも強く志向されています。
シリーズ化出来るか否かは、偏にヒットした1作目を受け継いだ2作目の出来に依存します。
本作は、昨年29.7億円の興行収入を上げ、アニメを除くと邦画第5位のヒットを飛ばした前作に続く第2弾であり、シリーズ化可否の重要な分水嶺として、入念な準備と体制作りで臨んだことが彼方此方に見て取れます。
最も恐れたのはマンネリ化だったのでしょう。前作との建付けの違いを強烈に実感します。
一つは、ストーリー設定のシンプルさと反比例した映像の凝り方です。
元々CXの同名ヒットドラマシリーズを映画化したコンフィデンス・ゲーム・ストーリー、即ち詐欺師たちによる騙し合いのドラマですが、本作の舞台は、騙すターゲットの大資産家ファミリーの大邸宅と騙しを仕掛けるパーティー会場のホテルという、広々とした室内のみで展開します。いきおいアクションもなく、パノラミックな雄大な場面転換もないことにより、どうしても映像が単純になるために非常に工夫と苦心をしています。
前作同様に、冒頭から伏線となるシークェンスを織り込み、その後は短いカットを次々と小気味よく小刻みに展開し、而も引きカットでパンを多くして、歯切れ良いテンポの良さで観客は人物に感情移入するような余裕もないままにスクリーンにぐいぐいと惹きつけられます。このカットの取り方、割り方は全編を通じて一貫しています。
更に映像が固定されることがなく、手持ちカメラも多用しながら、常にカメラは動き、揺れています。上空からの超鳥瞰カットや、往年のブライアン・デパルマ監督を彷彿させるような360°回転カットも多用され、その動的なカットの連続により、舞台が限定されていることやアクションが皆無であることは気になりません。
一方で、屋内でのカットを引きにしてスローなパンにすること、そのカットの中に絵画や美術装飾を美しい構図で入れ込むことにより、空間の広さ=富貴さを漂わせて観客を豊潤で耽美的な気分にさせてくれます。また人物の寄せカットは、主役である長澤まさみ扮するダー子と騙しのネタである関水渚扮するミシェルとの会話シーンが殆どであり、而も長回しにしているために、全編を通じた早いテンポにリズム転調を齎して、観客を飽きさせないようにしています。
二つ目は、騙しのテクニックの鋭さよりも、人と人との絆=情愛に重心を置いた点です。
今回も、お馴染みの役も含め胡散臭い多彩なキャラクターが登場しますが、前作のような虚々実々の騙し騙されての意表を突く仕掛け合いの連続はなく、詐欺師たちは悉くコミカルでシンプルな言動で終始します。騙しの切れ味は何れも鈍く痛快感はあまり得られません。
寧ろ、大富豪ファミリー三姉弟の、傲慢で、互いに冷淡で、我儘な、心貧しき人々の、その頑迷な心を溶かし人間的に救済することが、今回の眼目です。
今回は、騙すこと-“理”よりも、家族愛-“情”を訴えることにより、観客の目先を変え反応を試したように思えます。
騙すことをストーリーの軸に置きつつ、バリエーションの広さを見せてシリーズ化への道筋を引き出したのでしょう。TVシリーズのようで個人的には好みませんが、今回も加えられたポストクレジット映像にも第3弾への思惑は現れていました。
TVシリーズ以来の熟練した映像作りや芸達者の役者連の熟れた演技もあって、2時間飽きることなく笑って・泣いて・(手に汗)握り続ける、十分に堪能出来る作品に仕上がっていると思います。
新型コロナウィルス災禍により、新作公開が一様に先送りされていることもあってか、今の処は興行成績も順調のようです。
第3作への布石は着々と打てたのではないでしょうか。