「こんな2020年3月であって欲しかった」弥生、三月 君を愛した30年 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
こんな2020年3月であって欲しかった
『GTO』『魔女の条件』『女王の教室』『家政婦のミタ』『過保護のカホコ』『同期のサクラ』などなどなど。
あまりTVドラマを見ない自分でも知ってるこれら大ヒットTVドラマの脚本を手掛けた遊川和彦の映画監督第2作目。
映画監督デビュー作の『恋妻家宮本』は熟年離婚にあたふたする阿部寛がユーモラスな大人のコメディだったが、こちらは邦画の伝家の宝刀とでも言うべきすれ違いラブストーリー。
弥生、サンタ(本名は山田太郎、略した山太から)、サクラは高校の仲良し同級生。
弥生とサクラは唯一無二の親友。サクラはサンタに想いを寄せ、弥生とサンタは相思相愛ながらも想いを隠している。互いを想うあまり…。
卒業寸前、サクラがエイズで死去。卒業後、弥生とサンタは惹かれ合う気持ちを抱きながら、すれ違い続ける別々の道を歩む事に…。
そんな2人の30年を、3月の1日ずつ切り取って歳月が流れていく。
つまり、OPは80年代の3月1日で、ラストは2020年の3月31日という風に。
2011年の『ワン・デイ 23年のラブストーリー』の邦画版と言った感じ。
監督のこだわりは、時系列では描かない、テロップは出さないなど。
時々過去に遡ったり、テロップの変わりに劇中のアイテムで歳月を表現。
過去に戻ったりするのは2人のこれまでの歩みを見る上でいいが、年代表現はもうちと工夫して欲しかった。Jリーグ話や携帯→スマホだけじゃねぇ…。
大学に進学し、教師になる夢を実現させた弥生。歯科医の男性と出会い、結婚も順風満帆の人生を歩む。
一方のサンタはJリーガーの夢破れ、できちゃった婚するも、うだつが上がらず、息子の身に起こった事故が原因で離婚。どん底の人生を歩む。
ある時再会し、弥生はサンタを叱咤激励。またその時、2人は初めて…。
ダメな自分を奮い立たせてくれた最愛の人。
でもそれは、別の視点から見れば逆であった事が分かる。
実はサンタより先に結婚が決まっていた弥生。が、それは借金まみれの父親の勝手な都合で。
式当日、望まぬ結婚に悩む弥生に、出席していたサンタが背中を推す一声。それで意を決し、自分の人生を歩む決心をした弥生。
弥生はスゲェよなと言うサンタだが、弥生の今の人生があるのはサンタのお陰。
やはりお互い、運命の糸で結ばれた相手。
サンタは子供サッカーチームのコーチになって人生をやり直すも、一方の弥生はある悲劇が…。
舞台が仙台にもなり、2011年、日付は3月11日…。
東北人なら決して忘れる事の無い“あの日”。
どれほどの人が大切な人を亡くし、人生を狂わされたか。
弥生もその一人。
弥生の姿を通して当時の日本人の心の傷を表しているが、でも、必ずしも東日本大震災を絡ませる必要あったのかなぁ、と。
これはそれを出汁にしたラブストーリー…? だったら、文句の百個でも言ってやりたいが、
作品は春を連想させるものが多い。サクラという名、弥生=3月。近年の歳月が流れていくし仕方ないか…。
名前にぴったりなのも3月。10月だったらモノマネ芸人だし。
震災で夫を亡くし、生きる気力まで亡くした弥生。遺体安置所で会ったのを最後に、教師を辞め、連絡も取れなくなり、姿を消す…。
サンタも諦めかけた時、亡きサクラが生前カセットテープに遺したメッセージが…。
サンタは弥生を探す。
かつて弥生が自分を奮い立たせてくれたように。
今度は自分が弥生を助ける番。
果たして弥生を見付ける事が出来るか。
気付けば、2020年。あの頃から30年が経っていた…。
当初は弥生役を断ろうつもりでいたという波留。理由は、自分には無理。
いやいやいや、作品を見れば彼女のキャリアに於いても大変大きなハマり役。
美しさ、魅力、聡明さ、爽やかさ、意志と芯の強さをたっぷり堪能。
冒頭の走るバスへダッシュ、エイズでクラスメイトにいじめられるサクラに突然キス、周囲への影響力…その行動力!
クライマックスの教室のシーンはアドリブだとか!
そんな前半から、後半のか弱さ、脆さも加味。
全てが詰まり、波留好きは必見!
成田凌もさすがの巧演。序盤の自信家から中盤の落ちぶれっぷり、終盤の大人の男へ演じ分け。
2人共好演。序盤の高校生と終盤の中年期はちと無理あったが…。
出番は僅かだが、常に2人の心に居続けるサクラ役の杉咲花も印象的。
冒頭と終盤の走るバスへのダッシュ、教室での訴え、弥生とサンタのそれぞれの人生…対比するようなシーンが多い。
それはそれで巧み。
坂本九のあの名曲も重要。
でも、伏線張られ、お見事!…とまでは行かず、終盤の再会などありえねー!レベルのご都合主義。
『君の名は』もびっくりのすれ違いラブストーリーであり、『君の名は。』もびっくりのある一種のファンタジー!
ミュージカル風に歌うラストにこれまたびっくり!…いや、唖然。
さらに、ラストシーンの結ばれた2人の双子の赤ん坊かと思いきや、実は…なんて、狙い過ぎ。
とは言え、遊川のオリジナル脚本は及第点。
最後は2020年の3月で終わり、さすがに今のアレは当然ながら蔓延していない。
が、公開されたのはその2020年の3月。
アレのせいで興行的には苦戦したろうが、その時見ても今見ても、人と距離を取る事を徹底される中で、相手を想い、人が愛おしく感じられる作品であった。
わたしのとこに返信書きましたが、あれは通知いくんですかね?今ひとつまだ使い方がわからないアプリで(?_?)
コメントもなぜか、かける時、かけない時あり(?_?)コメント不可の設定だけでなく、何か不具合もあるような。
緻密ですね。本当に語彙が豊富。惚れ惚れする素晴らしいレビューですね。近代さんはすごいな。全部書いてありますね。確かに確かに。1点言うなら震災必要だったかなあ。それは私も思いました。震災が重い内容すぎるが故に安易に、なくても、よくできていた作品に入れ混む必要だったかなあと。確かに私もその点は、ひっかかりました。震災は震災で深くとりあげないといけないテーマですものね。