「歩み」弥生、三月 君を愛した30年 U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
歩み
アカン…これは見たらアカンやつや。
人生って辛いわぁ。
俺の記憶が確かなら、彼が最初に覗きこんだ新聞は昭和61年だった。西暦だと1986年、逆算すると…1969年前後の生まれになる。
俺は、彼や彼女と同じような時代を生きてきた。
後悔も懺悔も不必要だった人生なんてあるんだろうか?人生は選択の連続で、その選択が正解かどうかなど分かるはずもない。
選ばれなかった選択肢は、金輪際選べない可能性が高い。一方通行の迷路を僕らはずっと絶え間なく歩いてる。
そんな話だった。
同年代に近いからなのか感情移入が半端ない。自分達みたいで恐ろしいくらいだ。
まるで自分の人生を自分で傍観してるような…めちゃくちゃ居心地が悪い。色んなシーンが自分の人生とリンクする。
サンタがまたやらかすから…その都度、後悔をひきづっている自分に気づかされるようだ。
そんなこんなで「もうやめてくれ、分かってるから、そんなにバラさないで!」と土下座してしまいそうだ…。
迷いながらも懸命に歩いている全ての人へ向けた作品にも思う。
と、同時に残酷な時間の流れにも恐怖する。
迷おうが、立ち止まろうが、時間は冷酷に過ぎていく、老いは待ってはくれないのだ。
枯れていく花を見るのはしのびない。
波瑠さんは素晴らしかった。
あんな溌剌とした雰囲気の女性でも、あんなに影に覆われる事があるんだ、と。
人生って何が起こるか分かんない。
彼女の人生はホントに波乱万丈だったと思われる。サンタの人生も色々あったけど、お前はその都度流されてただけ…あぁぁぁっ、そんなとこも俺と被るようで、嫌だぁぁぁあ!
流されてく俺を…いやサンタを引き留め掬い上げるのは弥生だった。
彼女はサンタの前でだけ、生来の気質に戻るようだった。
余所見ばかりするサンタと、前だけ見て黙々と歩き続ける弥生。
形のないクッションのようなサンタと、堅固な岩のような弥生。
まるで正反対のようだけど、足して2で割ると丁度いいような2人。
彼らに幸せが訪れて良かった。
細やかな幸せなのかもしれないけれど、そこがスタート地点で少しずつ積もっていくものかもしれない。
物語は3月のみで語られるという大胆な構成だった。それがもたらすものは圧倒的なスピード感と絶対的な傍観者としとの立場だ。
介入できない。
自分の思考を挟む余地がない。
起こった事象だけを見せられる。
その時間の空白を埋める主演2人は見事であった。また、その空白などなかったように振る舞う関係性にも説得力があり、脚本の構成力に唸る。
エンドロールの後、彼らが産まれた3月のシーンがある。まるで赤い糸で結ばれていたようなシュチュエーションでもあり、随分と遠回りしたんだなぁとも思う。
黒木さんが演じる母親ってのは…まるで予言者のようであり、母性って計り知れない力みたいなのがあるだなぁとしみじみ。
ただ、まぁ、そんな運命の2人みたいな結末には若干モヤッともした。
いつかまた見る機会が訪れるのだろうか?その時に俺は彼らに顔向けできるような人生を歩んでいられるであろうか?
俺も頑張ってたぞと、胸を張りたい。
だからさ…さくらのお墓の前とかで、話しかけたいけれど、こんな自分を見られたくないって気持ちが痛い程分かんだよおおぉぉ。
まぁ、それでも彼ら同様、俺の人生は俺だけのものなので胸を張らざるを得ないのだけれどね。
そんな映画。
「人間50年」って織田信長が本能寺で舞うのだけれど、これは所謂、寿命としての50年なわけだけども…この映画に当てはめるなら、幸せを追い求める50歳までと、その幸せを堪能する50歳から、と。
50で人間、一区切り。
なんて事を言われてるような気にもなった。
なんか、きっと見る年代によって全く違う感想が飛び出てくる作品なんだろうなぁ。
そうなんですね。
同じ作品でも、受け止め方は様々なので、共感出来るレビューを読むと嬉しくなります。
映画館で観たい作品が幾つか有るので、新型コロナの収束を願うばかりです。