劇場公開日 2020年2月14日

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「戦場を歩む緊迫感はプライベートライアンを越える」1917 命をかけた伝令 mokusin takataniさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5戦場を歩む緊迫感はプライベートライアンを越える

2020年3月12日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

“長回し”(正確には長回し風ですが)の宣伝文句に惹かれて鑑賞しましたが
今年最も印象に残る映画ではないかと思います、いや本当にスゴイ作品でした。
目的は唯一つ【攻撃中止命令を最前線に伝える】---言葉にするなら簡単ですが
攻撃を受けない為に大量の死体が埋もれる酸鼻極まる塹壕を歩く嫌悪感
放棄されたとはいえ何時襲われてもおかしくない敵の陣地を進む恐怖
荒廃した街から崖下を流れる川に飛び込むまでの切れ目なき逃走の始終
これらの出来事が“長回しの様に見える映像編集”によって紡がれた結果
今起きている現実のごとく錯覚してしまう新感覚を生み出しているのです。
長回しの仕掛けが画面を遮る人に木や岩に建物がそうだとわかっても
戦場と長回しが相性良く混ざり合ってかつてない緊迫感を作っています。実際
風とはいえ本当に最後までワンカットですから、臨場感と没頭具合に加えて
先が読めないので、突如引きおこされる爆音には大いに腰が浮きました。
ただこれだけなら『戦争の悲惨さに臨場感あってスゴイ』で終了なんですが
この映画は“荒廃と美しさ”が両立して表現されていたのも特筆したいです。
顕著なシーンが崩壊した街で主役が気絶した後、夜になっている所なんですが
ここからの“照明弾で光と陰で色付けられた街並みの一連描写”に私の感性が
幻想的で美しい情景と感じたのです...万人が頷く理由になるかはわかりませんが
これは監督の計算されつくした計画と空間認識、それらを可能にした技術が
合わさって生み出された緻密な画角と色彩に感動したからかもしれません。
私は戦争映画への造詣が深いわけでも、特段好きでもない素人ですが
否が応でも血生臭くなる戦場という凄惨な舞台で相反すると思っていた
美しさを違和感なく展開に落とし込んでいたのは十二分に衝撃的でした。
そんな素人でも戦争映画の傑作は『プライベートライアン』の一強でしたが
今後は『1917~命をかけた伝令』を加えた二強になる事でしょう。
戦闘と無情の前者に戦場と幻想の後者、いや映画って本当にいいものですね。



余談ですが本作鑑賞後の余韻が中々に強烈だったのか、帰り途中の情景が
“映画の続き”と誤認識してしまう変な錯覚に陥いってしまいました---
感情移入しすぎかもしれませんが、同じような感覚になった方いますかね?

木神