「ありがとう。幸運を祈る。」1917 命をかけた伝令 KinAさんの映画レビュー(感想・評価)
ありがとう。幸運を祈る。
生きる、殺す、殺される、走る、逃げる、伝える、救う。
異常な緊迫感の中、至極シンプルなストーリーが際立つ。圧巻の一言に尽きる。
「兄を救う」という絶対的名分を持ったブレイブと、ほぼ巻き込まれる形でスタートしてしまったスコフィール。
二人のスタンスの違いが面白い。
たった二人にその命令を下すのは些か過酷が過ぎないか?と思いつつ。
巻き込まれたのは我々観客も同じ。
さあこの二人と共に生き抜いてやらんと、そんな覚悟を持って観ていた。
死体だらけの道中。
死骸を踏み分け進む中で、彼らが生きていた証、彼らが誰かを愛し誰かに愛されていた証がいくつも目に留まるのが何よりも辛かった。
自分たちが殺しているモノは紛れもなく「人間」である、と、実感せざるを得ない。
戦争における死と生のコントラストが鮮烈に表現されていた。
人間も動物も腐りゆく肉塊になっている傍らで、川の水は絶え間なく流れ、桜は美しく花びらを散らし、森の木々は鮮やかな緑を放っている。
火と埃に囲まれた廃墟の底で、新しい命が生まれ、それを育てようとする人がいる。
これが戦場だ、と何度も何度も叩きつけられた。
ワンカットの撮影手法はもはや新鮮なものではなくなってしまったけれど、その中でも抜群に高い技術が使われていると思った。
カメラのブレや速すぎるパンによる酔いやストレスが全く無い。
本当にどうやって撮ってるの?と思うシーンがいくつもある。純粋に凄い。
しかし、ワンカットにしてはあまりに綺麗すぎて、俯瞰の視点が強調されているようにも感じた。
そのためか体感度は意外と低い。
手ブレや安定しないカメラワークによるストレスは、映画を体感させるための重要なポイントだと思う。
リアルタイムのようでそうではない、舞台的な時間の進み方が独特で面白かった。
あくまでもナチュラルに、時間や場所をワープしている。
そりゃそうよね。リアルタイムで進めるなら6〜8時間は無いとね。
途中で出会う兵士たちとのやりとりが好き。
ありがとう。幸運を祈る。
シンプルな言葉に嘘はなく、切羽詰まった心にスッと沁み入るような心地良さがあった。
死は唐突にやってくる。いやだな。
戦争映画を観るたびにしんどくて堪らなくなる。