「これが食育だ!」461個のおべんとう といぼさんの映画レビュー(感想・評価)
これが食育だ!
以前この映画の原作である渡辺俊美さんのエッセイ「461個の弁当は、親父と息子の男の約束。」がテレビで取り上げられたのを見た記憶があったので、予告編を観て「あのエッセイが映画になったんだ」と思い、興味を持って鑑賞いたしました。だいたいの話の筋は知っている状態での鑑賞です。
結論としては、非常に面白かった。毎日のお弁当を通じて、親子愛が育まれる描写とか、お弁当によって学校生活に潤いが出てくる描写とか、映画としても綺麗なストーリーですし、「お弁当」というエッセンスがキッチリ仕事している作品でしたね。普通に感動して泣きそうになりました。
・・・・・・・・・・・
ミュージシャンとして活躍している鈴本一樹(井ノ原快彦)は夫婦間のすれ違いによって、長年連れ添った妻と離婚をすることになった。家庭環境の不和によって息子の虹輝(道枝俊祐)は高校受験を失敗。一年間浪人して高校に入学することとなってしまう。そのことに罪悪感を覚えた一樹は、「高校三年間のおべんとうは毎日自分が作る」という約束を交わし、ミュージシャンとしての多忙な生活の合間を使って弁当を作る日々が始まったのだった。
・・・・・・・・・・・
一年浪人して高校に入ったため同級生は皆年下、中学の同級生は先輩になっているという肩身の狭い状況だった虹輝。そのため、父親である一樹は「毎日弁当作るから、お前も毎日ちゃんと高校行けよ」という約束を交わす。自由奔放でだらしない父親だった一樹が、息子との約束を果たそうとする姿には感動を覚えました。
序盤の虹輝が生まれてからの描写とか一樹の離婚や浪人生活のくだりとか、詳細を描写する必要の無いところをダイジェストとして短くまとめていたのは非常に良かったと思います。あくまで「弁当を通じた親子愛」がこの作品の肝ですので、序盤にテンポよくお弁当作成するまでの流れを消化したのは見事でした。
中盤以降の、浪人生故にクラスで肩身の狭い思いをしていた虹輝に、父親のお弁当を通じて友人ができるという流れも、ハートフルでとても楽しめました。
ラストシーン、高校を卒業した虹輝と一樹が並んで歩き、「大きくなったな」と呟くシーン。映画序盤にあった虹輝の幼少期のダイジェストと構図が全く同じで、まるで観客の我々も虹輝の成長を見守ってきたかのように感じられる素晴らしいシーンでした。
細かいところですが、「何で坂の上に家建てたの」という虹輝の質問に一樹が曖昧な返答をして「詳しく説明する?」と言うシーンがありましたが、あれは後から思い返せば一樹が津波によって甚大な被害を受けた地域の出身だからだったんだろうなぁ、と感じました。細かい部分にちょっとした伏線や考察の余地を忍ばせているところも粋ですね。
ほとんど減点する箇所が無いような映画でしたが、唯一引っかかった部分が異常に長いライブシーン。「何でこんなに長いんだろう」と鑑賞中は疑問でしたが、エンドロールを観ると原作者でもある渡辺さんの提供楽曲だったので納得。大人の事情ですね。映画中に2回か3回くらいライブシーンがあって、毎回しっかり尺を取って曲を流すのでかなりテンポが悪く感じてしまいます。ラストのライブシーンは演奏中にもストーリーが進むシーンがあるので良かったですが、最初のライブシーンはただただライブ映像を見せられるので異常に長く感じられました。
逆に言えば、それくらいしか気になる部分はありませんでしたので、非常にクオリティが高い素晴らしい映画でした。オススメです。