「役所広司と長澤まさみ、仲野太賀の3世代競演、そして音楽」すばらしき世界 ycoさんの映画レビュー(感想・評価)
役所広司と長澤まさみ、仲野太賀の3世代競演、そして音楽
キービジュアルの印象から何となく観ないでいたが、いざ観てみればよい意味でいつも通りの西川美和監督らしい世界観であった。小さなヤマ場を盛り込みつつ、テンポよく物語は進み、飽きさせられることはない。
人間の多面性・善と悪の同居。特にこの作品ではそれらがごく普通の人々のごく普通の日常の中にあることを感じさせられた。「悪」といっても明らかな悪意ではなく、立場が違えば、あるいは結果として、あるいはそうなるのも無理からぬ、というようなものだ。
小さいけれど、そういったものが積み重なって世の中ができている。時としてそれが生きづらさの原因にもなっている。ざっと総括すればそういう映画だと思う。
演者も実力者揃いで危なげなく観ることができた。
それにしても役所広司、この人は本当に凄い役者である。
元ヤクザらしい激しさと危なっかしさ、世間では通用しない元犯罪者としての無力さ情けなさ、暴力によって敵を制そうとしたとき生き生きとした表情、ありとあらゆる側面・表情をみせながらも主人公「三上」であることにブレが生じることはない。説得力のある存在感。特に強く印象に残ったのは終盤のホームでの談話シーン。グッと怒りを飲み込み周囲に同調するような台詞を吐く場面。その笑顔の中にたくさんの複雑な感情と情報が押し込められているのがわかる。なんという演技力であろうか。改めて彼の力の底の知れなさを感じさせられた。
そして次に印象に残ったのが長澤まさみ。
「Mother」以来社会派の作品を選ぶことが多く演技に幅が出てきたが、この作品では彼女の演技力がまだまだ進化中であると思わされた。登場時間でいえばそれほど長くないにもかかわらず、彼女演じる人物がどのような者かしっかり伝わってきた。特に姿の映る出番としてはラストの仲野太賀とのやり取りのシーンは圧巻であった。「Mother」以来の荒いシーンであったが、明らかに「Mother」を上回る凄味があった。
クレジットでいえば2番手である仲野太賀は彼らしい真摯な演技であったが、
先の二人に比べればまだまだであるということを感じさせられたのは否めない。
長澤まさみと仲野太賀はそこまで年齢もキャリアもそこまで差はないが、長澤はデビューから第一線で揉まれてきて勝ち残ってきただけあり、仲野よりも一段上のステージにいる。
仲野はそれを追う立ち位置である。が、いまはそれでいい。
正直役柄的にもなくても作りようによっては話は回りそうで、仲野太賀を配したいがために作ったのかな、という気がしないでもないのだが、彼が先々西川組に参加していく足がかりのようなものと思えば、今後に期待しかない。
最後に、音楽が林正樹であったことは驚きであった。
ずっと劇伴が良いと思いながら観ていて、
「この感じ物凄く好きだな」「聴いたことある雰囲気だから、他の映画でもよく名前を観るような人に違いない」と考えていたら、まさかの私が今一番気に入っているジャズピアニストの彼であった。
劇伴はジャズ調ではなかったので、とても意外であったとともに、やはり好きなものはわかるものなんだなと自分のアンテナの自信を持ち(自己満ですが)、また、私が好きな西川監督もまた彼の音楽を好きなのだろうと思うとなんとなく嬉しいのである。