「「或る男の一生」を変わった視点で観た感想」すばらしき世界 TSさんの映画レビュー(感想・評価)
「或る男の一生」を変わった視点で観た感想
ある日、書店で西川美和著「スクリーンが待っている」を見つけ購入して読んだ。この本には、この映画の制作過程が綴られている。この映画のことを綴っているが、監督の考えや、現代日本の映画制作の現場を知る上でも大変面白い本だった。
当然、映画本編も観たいと思って本作を観たわけだが、その制作過程を企画段階から上映後まで知った上で本作を観るという、これまでにない見方をした映画になった(同じような経験をした人、いるだろうか?)。
あらすじは予めわかっている。はじまりも、結末もおおよそ見当がついている。それでも全編まったく飽きること無く観ることができた。各シーン、各シーンにそれぞれ意味が込められており、作り手の思いが凝縮されているということをしみじみと感じることができた。濃密な2時間だった。これは、本を先に読んだからこそ感じられたものだったと思う。
どうして濃密と感じられたか?それは本に詳しいが、監督が膨大な時間をかけて取材し、ときに俳優との真剣勝負のやりとりもしつつ何度も練り直した脚本と、その脚本の世界を、プロフェッショナル達がたった一瞬のカットであっても本物の「画」として撮り、「音」を撮ったということが実感できたからだ。そうした映画制作陣の仕事ぶりを、そこかしこのシーンで感じることができた。
この作品については、上記のような経緯で観たため、制作、撮影、音響、美術、宣伝といった裏方の仕事ぶりに注意が向いてしまったきらいがある。しかし、しかしだ・・・
やはり役所広司は凄いとしか言いようがない。見た目は役所広司なのだが、中身が出る映画の度に入れ替わっている。役所広司の見た目をしているが、もうすっかり全身「三上」なのだ。直情的で単純で不器用なだけに見えるこの主人公の、一筋縄ではいかない過去と心情を全身で表現している。恐縮し、緊張で強ばった目と体。激高して振るう暴力。子供と屈託のない笑顔で遊ぶ姿。泣き崩れる背中。一番星を見つめる目。この男をずっと観ていたい・・・そんな気持ちにさせるのだ。
役所広司だけではない。監督の指名で出演となった仲野大賀。彼の最後の演技で私は泣いてしまった。それまで冷静に観ていたというのに、どうして?
ああ、そうか、彼が演じる津乃田もまた、この三上という男をずっと観ていたい人間だったのだ。原案の作者の佐木隆三もたぶん同じだ。この三上という男には、言い知れぬ魅力があったのかもしれない。
六角精児、橋爪功、梶芽衣子、キムラ緑子、北村有起哉ら、三上を支える役柄の演者も上手かった。いい人すぎる、という意見があるかもしれないが、三上が、そして映画を観た我々が「すばらしき世界」を実感するには必要な役だった、と思いたい。
この映画が心に残った人は、西川監督著「スクリーンが待っている」を読むことをお薦めしたい。映画に出てくる端役についても、知られざる物語があったことを知れる。映画を見る目が変わる本である。
冒頭を拝読しながら同時に、
役所広司さんが出てるとどうしても惹きつけられ、見入ってしまう、思っていました。
やはり凄い役所広司。
仲野太賀さんもいいですよね。
長生きして穏やかな人生を送って欲しかったです。
読了してから鑑賞すると、列車の場面一つとっても見え方が変わりますね。読み終えて、映画へのリスペクトを欠いたレビューはしないようにしようと思いました。
TSさんのおかげで、いい本と出会えました。ありがとうございました。
以前に鑑賞したまま、レビューをあげていない作品なのですが、TSさんの文を拝読して、もう一度見返したくなりました。スクリーンが待っているも読んでみたいと思います。
うわあ、素晴らしい経験をしたって感じですね。何かで書いたけど、俺はスポーツ観戦好きなのですが、特に、選手やチームの背景を知って観る試合は、最高だと思っています。
TSさんの体験は、それに近いものかと感じました。スポーツ観戦の場合には、さらに「最終的な結果は観なきゃわからない」という緊張感があり、映画の場合には、「あらすじを知っているとはいえ、いや知っているからこそ、細部までにわたって、この映画のよさを堪能できるという充実感があるのですね。そしてそれが成り立つ映画は、ストーリーだけで十分だと思わせることがなく、ストーリーや映像が観客にもう一回り外側までを知りたいと思わせてくれる映画ってわけですね!う〜ん、素晴らしい。
いや、ぜひ読んでみようと思いますわ。「スクリーンが待っている」!!
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役所広司が素晴らしかったです
人生捨てたもんじゃない。
三上自身が「いい奴」だから、周囲も親身にしたくなるところもあるかもしれません、ほんと「すばらしき世界」ですよね。
介護施設で「いじめ」と早合点して短気を起こさなくて良かった、三上はここで大きく一つ学習したのが分かりました。
いい人たちに支えられ、老後の心配をすることなく早くに行ってしまって、ある意味最高に幸せな男だったかもと思いました。