「そこに『素晴らしき世界は』あるのか」すばらしき世界 inosan009さんの映画レビュー(感想・評価)
そこに『素晴らしき世界は』あるのか
『ゆれる』や『ディア・ドクター』の西川美和、人間をどこか冷めた目で見てきた監督である。この映画、一筋縄では収まらない予感はした。役所広司が怪演するこの主人公を、真面目なのか馬鹿なのか、状況によって豹変する短絡的な人物として映し出す。13年の刑期を終えて出所したこの男もまた、社会に同化して生きてゆくにはあまりにも不器用すぎるのである。彼の周囲には、身元引受人として何くれとなく面倒を見てくれる弁護士や、生活保護や仕事の世話をしてくれる役所のケースワーカー、なぜか親身になってくれる地元スーパーの店長など、一人で頑張って生きていかなければならない一般の社会人から見ればあきれるくらい「恵まれた」環境がそこにある。それが犯罪者の社会復帰を手助けする社会構造のあり方か。まったく「素晴らしき世界」の中に彼はいる。それなのにこの元殺人犯は社会に同化することができないのだ。
映画はこの男の成れの果てをただ冷徹に提示してみせる。それはただ単に身から出たサビ、すべては自業自得、といっているようにも見える。刑期を終えた犯罪者が社会に同化できない世間の在り方を指弾するものでもない。ただただ道を誤った人間の、寄る辺なき姿を露わにして見せるばかりなのだ。監督西川美和の、人を見つめる鋭利なまなざしがここにある。
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