「母ちゃんしか覚えとらんことばい」すばらしき世界 shimoさんの映画レビュー(感想・評価)
母ちゃんしか覚えとらんことばい
映画「すばらしき世界」(西川美和監督)から。
人生の大半を裏社会と刑務所で過ごした男の再出発の日々は、
経験したことのない私にとって、コメントができる立場にない。
しかしなぜか、気になったフレーズのメモは溢れ、
到底、一回では書ききれないほどだった。
今回は、そんな体験をしてきた主人公が、自分を産んでくれた母親に
会いにいくシーン。
同行した記者が「どんなことを訊いてみたいですか?」と訊ねたら、
「お産の時の話は聞いてみたいね、自分をどげんして産んでくれたか」
と答え、逆に記者に訊き返す。
「あんた聞いたことあるどね?」と。
そして最後に「母ちゃんしか覚えとらんことばい」と語った。
私は、この台詞でハッとさせられた。
今、自分がこの世界にいるのは、母親が産んでくれたから。
そんな当たり前のことなのに、自分がどうやってこの世に誕生したのか、
その瞬間の話を聴いたことがなかった。
生まれた日時、体重、身長などの数字、
そして、私を取り上げてくれたお産婆さんの名前まで訊き出したのに、
母親しか覚えていない、産んだ時の記憶を聴いたことがない。
お互いが認知症になる前に、聴いておこうっと。
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