「タイトル詐欺」すばらしき世界 うにたん♪(コロナが当たり前の世界)さんの映画レビュー(感想・評価)
タイトル詐欺
三上の家庭環境が悪かった事が容易に身を落とす原因なのはわかる。
なのに母への想いが残るのはわからない。
少年だった三上は施設に預けられたまま、捨てられた状態となり施設を出奔しアングラな世界に入り込んだ。
ヤクザ渡世が染み込んで社会では通用しない感覚が身に付いたまま、そして妻が出来た事をきっかけに堅気になろうとした矢先、絡んできた相手を殺してしまった。
殺人は重い。
作中に何度も問われる。
「後悔しているか?」「相手に対してどう思っているか?」など。
三上はあまり反省していないし、「あっちが悪いんだよ」と必要以上の反撃で相手を殺害した事に頓着がない様子だった。
そんな三上が刑期を終えて出所…身元引き受け人や更正を手助けする人々に囲まれて変わっていくかと思いきや、社会の差別は本当に厳しい。
銀行の通帳は作れない、反社会的勢力に属した事があると生活保護すら受けにくくなる。
刺青も問題だ。
三上の周りには普通に社会に適応している人が大勢出てくる。
皆、当たり前に我慢するべき事を我慢出来る人々だ。
ちゃんとルールを守って生きている。
三上はどうだろうか?良いか悪いか別にして一本気で所謂スルー力なんて全く持ち合わせない。
そんな人がルールを守れる人達の助言を受け入れるまで、紆余曲折を経る…実話と言う事だがやはりこんな風に扱われるのも仕方ないと思ってしまう。
TV局がらみでライターとプロデューサーが出てくるが、ドキュメンタリーで撮った方伝わると思うけど…それじゃあ売れないんだよなぁ。
物語として纏まっているが大きな変化はなく淡々と進む為、心が揺れ動かされる作品ではない。
より優れた人間がより優れた社会を構築しその為のルールを作り、新しい社会の常識を作り、その他大勢がそれを守っていく。
ルールから外れるとつま弾きされ生きづらくなる。
ルールに耐えながら生きてる人間からすれば、ルールを破る人間は「ズルい」「私たちは我慢してるのに…」となる。
しかし、そのルールを作り出した人が自分を有利にするルールを作っているような気がするのだ。勿論そんなルールを作れると言うことは圧倒的なちからを持っていることに他ならない。
話は逸れたがそんな社会で使えない人間の行き先はアングラしかない。
一昔前ならそれなりにアングラ社会にもアングラなりの不文律があり、濁りのなかでそれなりの秩序があった。
だが今はグローバリズムで作られた“当たり前、スタンダード”が「えっそれが世界の常識なの?」と驚かれながら受け入れられる社会となり、濁りにも弾かれてくる人間が増え、支えるのにちからも金も要るようになり反社会的勢力にもグローバルスタンダードの波と暴対法。
弾き出されたつま弾き者の受け入れ先であった総称ヤクザと呼ばれる居場所を掃除しまくった結果、世の中には別種の害悪が多数出現し平和も失われつつある。ヤクザを褒めるつもりはないが、散々つま弾きにされる三上が電話した元ヤクザ(白竜)と話していると“やっと話が出来る”ホッとした表情を見せる。
誰かに従って生きても、やせ我慢とストレスの嵐。
逆らっても疎外され生きづらい生活を強いられる。
歴史上、色々な為政者が居たが今の時代が本当に「すばらしい世界」と思っている人は少ないのではないか?
三上のラストは切ない。