「「いい話」では誤魔化せない映画としての限界」すばらしき世界 今日は休館日。さんの映画レビュー(感想・評価)
「いい話」では誤魔化せない映画としての限界
いわゆる「いい話」だ。
人間同士の心の通わせ合いなんて、昔はなんとも思わなかっただろうが、歳のせいもあるんだろう、確かに心に響くところもある。
普遍的で人を選ばないメッセージだ。
社会において大切なものを描いていると思う。
しかし劇として、映画として、面白くない。
どうしてこうも脚本がだらっとするのか。邦画によくある感触。展開のメリハリがとにかく弱い。
映画の中心は必ずしもメッセージである必要はないが、もちろんメッセージを中心に置いてもいい。だが中心のメッセージがしっかりしているからといって、いい映画ではあり得ない。映画として面白いからこそ、より強く、深くメッセージが刺さるはずなんだが。
そしてディテールの欠落。
キャラクターがどれも既視感のある、わかりやすくディフォルメされた人物ばかり。アクションやコメディならまだしも、人間を描く映画で、これはあんまりどうなんだろう。
分かりやすいいい話で、ストーリーも簡易。きっと客も入り、評価もされるだろう。今回の作品の第一目的がそこにあったんだろうことも窺える。
しかし、考えもなしにヤクザの親分に白竜をキャスティングし、風呂場で背中を流し合い、差別者を適当にリアリティなく描き、何の意味もない長澤まさみの役のような存在を放置するといった判断の数々は、決してその影に隠されていいものではない。
邦画界が描く人間ドラマの到達点であり、これが限界点なのだろう。