「これは「役所広司を楽しむ映画」」すばらしき世界 清藤秀人さんの映画レビュー(感想・評価)
これは「役所広司を楽しむ映画」
殺人罪で13年の刑期を終え、出所して来たのは、時代の変化に対応できず、何事にもすぐにキレてしまう三上なる男。しかし、見た目は荒くれ者でも、彼は他人の不幸を見逃せない実直で正義感に溢れる人物であった。だから、身元引受人の弁護士夫婦や、TVプロデューサーの指示で三上の出所後の動向を撮影しようとする小説家志望の青年や、三上を万引き犯と勘違いしたことをきっかけに親しくなるスーパーマーケットの店長等、周囲の人々を自然に巻き込み、そして、魅了していく。やがて、気付くのは、なぜ、三上のような人間が犯罪を犯し、人生の時間を奪われ、社会復帰に苦労しなければならないのか?という疑問だ。それは同時に、今の日本社会を構築している我々への問いかけでもある。30年以上前に出版された佐木隆三の原作を現代に置き換えた物語は、細部に変更を加えて、2021年の日本人に向けて痛烈なメッセージになっている。「果たしてここは、すばらしい世界なのか?」という。秀逸な社会派人間ドラマであることは間違いない。でも実のところ、三上を演じる役所広司を見ているだけで、知らないうちに時間が過ぎ去ってしまう、言うなれば、「役所広司を楽しむ映画」でもある。ここ何十年もの間、高い頻度で日本映画に貢献してきた稀代の演技派が、それでもまだ、物凄く面白くて新鮮でさえあるという事実の方が、映画そのものより衝撃的なくらいだ。