「誰も見上げる事のない広い空」すばらしき世界 bloodtrailさんの映画レビュー(感想・評価)
誰も見上げる事のない広い空
何でまた、こんなにも近接するかなぁ。似た様なネタがw あちらは「やたらと画力の高い成人誌の漫画」でイマイチ乗りきれずに終わりましたが、こちらは「一見無責任なオチの小説」的だったけど、こっちの方が好き。
にしてもですよ。予告詐欺です。長澤まさみはチョイ役のチョイ悪役。役所広司と仲野大賀の映画と言いたいところですが、物語はほぼ全編役所広司で埋め尽くされてます。独り舞台と言った方がしっくり来ます。
生まれながらのヤクザはいない。人を暴力に走らすのは人。人が暴力に走るのは人との関わりを忘れてしまう時。的な性善説に帰着するかと思いきや。ヌーベルバーグ的バッドエンドの後に、「雲ひとつ浮かんでいない広い空」に「すばらしき世界」と描いて終わる映画。
西川美和さん、このラストショットを撮りたかったんだろうなぁ、なんて思いつつ。で、んで、ででで。それって、どーゆーこと?
塀の中に居た三上にとって「広い空」は「すばらしき世界」だったのか?それは三上自身が否定します。
「こんな肩身の狭い思いをするくらいなら塀の中の方がマシ」
三上を食い物にしようとする者もいるけれど、三上の身を案じ親身になってくれる者も居る世界は「素晴らしき世界」なのか?そんな単純なもんじゃ無いよね。
「誰もが自分も認めて欲しいし、褒めて欲しい」は、津乃田の言葉。母親に捨てられた事実を認めたくない三上も、自己承認欲求からヤクザの道へと入りますが、徐々に、その暴力性だけが人格を支配して行く。最早、塀の中に戻らなくても良いのなら、衝動を抑える事さえ不要との思考に陥っている。
故郷の施設で母親への想いを吹っ切り、職に就き、衝動を抑える事を覚え、元"内縁"の妻と会う約束をし、「台風から守るために切り取ったコスモス」を自転車の前かごに乗せて、自宅に戻ったところで心臓の発作に倒れる。切り取ったコスモスの命は短い。台風から護るために花を短命化する事は正しいのか。
たった一つの答えの無い世界で、堂々巡りする問いと答え。
「すばらしき世界」は広い空に描かれた文字。誰も見上げる者の無い、広い空。すばらしき世界なんて、どこにも無い。それは、それを見上げる者の心の中にだけ存在し得る、のかも知れない。的な。
逆説的タイトルなのか、問いかけなのか。
この分からなさ具合が、結構好きです。
良かった。かなり好き。
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2/16追記
やっぱり、「すばらしき」の解釈やいかに、になりますよね、この映画w
「ライフ・イズ・ビューティフル」の意味は「どんな状況下でも人生は生きるに値するほど美しい」。これと同じだと思うんです。
「どんな境遇にあっても。どんな生き方をしていても。"世界はすばらしい"と人が感じた時、それは"すばらしき世界"になる」的な。
西川美和さんは、その意図を自分自身で語るなんて野暮なことはしないよねぇ、恐らくはw