「すばらしき世界とは」すばらしき世界 まさるさんの映画レビュー(感想・評価)
すばらしき世界とは
殺人を犯し、人生の長い時間を刑務所で過ごした男が数十年ぶりの社会で生きる姿を描いた作品。
今度こそは堅気だと真っ当に生きようと努力する三上が直面する社会での生きづらさ、社会の不寛容さ、元いた世界に戻りかねない危うさが繊細に描かれていると感じた。
犯した罪に対する反省はなく、刑務所に戻らないために社会で堅気として生きると考えていた三上だが、出所後に出会う人々との繋がりの中でその考えは変わっていったのだと思う。直情的な性格の三上だが、その真っ直ぐさや正義感の強さ、人懐こさからか、そんな彼の短気で暴力的な側面も理解した上で支えてくれる人々に出会っていく。三上の人柄をよく理解し信じてくれる人がいたからこそ彼は再び罪を犯すことなく生きることができたのだと思う。
すばらしき世界とはなにか、社会で普通に生きるということはどういうことか。三上が歩き始めた社会は、決して生きやすく全てが正しい世界ではない。介護施設で三上が自らの正義を押し殺し見て見ぬふりをする場面はそれをもっとも象徴して描かれたシーンだったと思うし、観ている人の心にも罪悪感のようなチクッと痛いような感情を抱かせたのではないか。この社会は果たして素晴らしいのかという問いを投げかける映画だったと思う。
三上にも本当にこれが社会で生きる正しさか、という疑問は常にあったのだろうと思う。しかしその中でも社会の一員として人々と繋がり生きていくということ、その喜びを三上は感じ始めていたのではないか。
社会の現実、人の心の機微が繊細に描かれた、考えさせられる一作だった。物語としてストーリーに壮大さこそないが、観終わった後にも私たちの心に小さなしこりを残すような、何とも言えぬ後味がじわりと続くような、そんな作品だったと思う。
最後に、役所広司さんの演技には圧倒されました。
これまでも好きな役者さんでしたが、改めて素晴らしい役者さんだなと実感しました。