「三上正夫(役所広司)は殺人事件を起こして服役していたが13年の刑期...」すばらしき世界 panpan00さんの映画レビュー(感想・評価)
三上正夫(役所広司)は殺人事件を起こして服役していたが13年の刑期...
三上正夫(役所広司)は殺人事件を起こして服役していたが13年の刑期を終え出所した。直前の刑務官とのやり取りで、三上が全く反省していないことが分かる。分厚い書類が机上に積まれファイルを開くと多数の押印が見えた。DXや働き方改革などで悪となった押印文化が公的機関には沢山あるのだろう。ゾッとする。
三上の生い立ちは父に認知されなかったため社会的に存在しなかった。母にも4歳の頃に捨てられている。それから非行に走り14歳で初めて少年院に入る。罪を犯す人間の根底は大体同じで家庭環境に恵まれていないようだ。
三上の体には左胸から左腕にかけて筋彫りがある。また、左胸には刀傷がある。
殺人を犯した三上の人間性は残虐ではなくてどちらかと言うと純粋で真面目に見えた。服役中の規律正しい生活は体に染み込んでいて出所後にもそれが出てしまって笑いを誘う。そう振る舞ってしまうのも根が真面目だからに他ならない。
三上は出所後にチンピラに絡まれるオッサンを見かけると制止しチンピラを倒してしまった。正義感が強いというよりスルースキルが無くておかしい事はおかしいと行動する純粋さが三上にはあると思う。
三上が暴力を奮った(奮おうとした)のは①服役の原因となった殺人(女を守ろうとした)②階下の住人の騒音③チンピラにオッサンが絡まれている④介護施設でのイジメ、の4つでありいずれも三上の方が正しいように見えた。
しかし、社会で真っ当な生活を送るにはこのような事象に目を向けないような『普通』にならなければいけない。『普通』とは?
三上は『普通』になるため努力していた。スーパーで万引きを疑われた時は込み上げる怒りを上手くコントロールした。周囲の助けがあって徐々に社会に馴染むのでハッピーエンドを迎えそうであったが最後は自決してしまう。死の直前、イジメられていた介護士からコスモスを受け取ると三上は泣いた。社会的弱者に涙した。介護施設でハサミが出た時に何に使われるか緊張したが、それを使って自決したのだろう。
三上は抵抗しながらも生活保護を受給した。しかし、金銭の受給だけでは社会に戻れない。生活を立てるには仕事が必要だが、出所後の職探しは困難だ。殺人を犯した者を受け入れる人は少ない。三上に手を差し伸べないのは『普通』なのかもしれないが、どうあるべきか考えさせられた。