劇場公開日 2020年11月7日

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「古今東西の名作群への限りないオマージュで師弟愛を包むアニメ版『ドランクモンキー 酔拳』」羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ) ぼくが選ぶ未来 よねさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0古今東西の名作群への限りないオマージュで師弟愛を包むアニメ版『ドランクモンキー 酔拳』

2020年12月30日
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鑑賞方法:映画館

舞台は現代の中国なるもそこは妖精と人間が共存する世界。人間達による乱開発で住み慣れた森を追われた妖精シャオヘイは黒猫の姿で都会の片隅で暮らしていた。ある夜路地裏で不良少年達に襲われたところを見知らぬ妖精フーシーに助けられたシャオヘイは誘われるままに人間達に忘れ去られた森でフーシーの仲間達と暮らし始めるがそんな平和な暮らしも束の間、突然現れた謎の男ムゲンにシャオヘイはさらわれてしまう。フーシーらは手分けして二人の行方を追うが・・・。

結論、これは魂が震えるくらいの傑作です。

個人的には妖精と人間の共存というのは一番苦手な世界観なんですが、この構図はダイバーシティの現況そのもの。お互いを尊重し認め合うのか、どちらかが肩身の狭い思いを受け入れるのか、はたまた血で血を洗う憎しみの連鎖を繰り返すのか、それは『X-MEN』シリーズのテーマであり、昨年鑑賞した『プロメア』でも問われていた命題。フーシーとシャオヘイの交流でそこをしっかり押さえられればあとはとにかく繰り広げられる映像に身を委ねるのみ。下地はそんなグローバルスタンダードですがそこは中華アニメ、もちろん背景に濃厚に滲んでいるのは古き良き武侠片への憧憬とジャッキー・チェンが『ドランクモンキー 酔拳』で確立したベタなギャグを矢継ぎ早に繰り出すクンフーコメディへのリスペクト、要するにシャオヘイとはジャッキーが演じた若き日の黄飛鴻へのオマージュそのもの。そしてフラッシュバックでたびたび挿入されるのは宮崎駿作品からの引用。シャオヘイが食事を貪り食う様はカリオストロ城からボロボロになって脱出したルパンの食事と同じテンションなのでニヤニヤしてしまいます。そんなノンビリした中盤から一転して繰り出されるのは『スーパーマン』から『ドラゴンボール』に受け継がれ『マトリックス』、『クロニクル』といった作品に通底する異能の者達が都市を破壊しながら繰り広げるスピーディな格闘。ここにもクンフースパイスが十二分に効いているので静と動の間を優雅に駆け回るアクションシーンは垂涎モノ。そして満を辞してブチ込まれるのは当然大友克洋テイスト。『AKIRA』オマージュが盛大に振る舞われるクライマックスでは細井守作品で多用される音声の遮断による浮遊感も絶妙なタイミングで挿入され没入感をとにかく煽ります。要するに日本のアニメから洋画までエポックメイキングな名作群の要素をこれでもかとコラージュした豪華絢爛な作品。しかしそれが一切押しつけがましくないのは余りにもキュートなシャオヘイと、ムゲン、フーシー他の異能の者達の美しい佇まいによるもの。クールジャパンとかジャパニメーションといった自賛を瞬く間に滑稽な文字列に貶めた圧倒的な力作で、シャオヘイが放つ最後に振り絞る一言で涙腺が決壊しました。またとんでもない傑作を観てしまいました。

やっぱり口コミで評判が広がってロングランする作品というのは破壊力が桁違い。これはどんなに宣伝費をかけても代替することの出来ない効果。こういう作品が映画史にくっきりとその名を刻んで欲しいと思います。

よね