「面白い設定を十分に活かしたストーリー」水曜日が消えた といぼさんの映画レビュー(感想・評価)
面白い設定を十分に活かしたストーリー
観よう観ようと思っていたけど結局都合が合わなくて観られなかった本作。DVDのレンタルでようやく鑑賞しました。評価が結構高いのと、とある映画レビュアーさんが2020年の映画ベスト5に挙げていたのも手伝ってかなり期待値は高かったです。
結論としては、めちゃくちゃ面白い。曜日ごとに人格が入れ変わるという設定は2017年公開の『セブンシスターズ』に近いところがありますし、各人格の性格が全く異なる描写はボカロ楽曲『十面相』を思い浮かべました。後半の展開は2003年の名作映画『アイデンティティー』に近いですね。
過去の作品と似てはいますが、この作品は他には無いオリジナリティを持っているように感じました。また、突飛な設定を活かしきれずに「もう少し面白くなりそうなのに」と感じる映画も結構あるんですが、この映画は「曜日ごとに違う7人の人格」という設定を十分に活かしていたと思います。
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幼少期の事故が原因で曜日ごとに人格が入れ替わるようになってしまった主人公(中村倫也)。性格も個性も異なるそれぞれの人格はお互いを曜日で呼び合い、協力して生活を送っていた。中でも火曜日は真面目で個性に乏しく、家の掃除などを任される損な人格だった。ある日、「火曜日」の人格が水曜日に目を覚ましたことで状況が一変する。「火曜日」は水曜日の生活を謳歌するが、次第に違和感を感じ始める。
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主人公である人格「火曜日」は几帳面で真面目で気が弱い性格。遊び人で自堕落な「月曜日」が部屋を散らかしたり女性を家に連れ込んだりして、その後片付けを丸投げされる損な役回り。近所の図書館は火曜日定休日なので一度も入ったことが無く、多重人格の治療のため週に一回病院に通う役割も任されている。私個人の話なんですけど、私は仕事が火曜定休で、近所の図書館も火曜休みなので就職して以降行けなくなったので凄い気持ちが分かります。
私はまだ観てないんですけど、あらすじだけ見れば完全に『セブン・シスターズ』っぽいですよね。『セブン・シスターズ』は厳しい一人っ子政策が施行された近未来の世界が舞台。そんな世界なのに7つ子が誕生してしまったある家族。7人それぞれが曜日ごとに外出して一つの人格を演じることで政府の目を誤魔化していたが、ある日月曜日(マンデー)が外出先から戻ってこなかったことで入れ替わり生活が狂い始めるという物語。でも本作も『セブン・シスターズ』も両方観た方曰く、設定は似ているけどストーリーはかなり違うらしいです。
全編通して、伏線の張り方とラストの回収がなかなか素晴らしい。ある日を境に「火曜日」は水曜日にも行動できるようになって自由な生活を楽しむのだが、次第に「水曜日」という人格が消失していることに罪悪感を感じるようになると同時に、日常生活の中でどことなく違和感を抱くようになります。この伏線として張られた違和感がラストに綺麗に回収されるので、観ていてめちゃくちゃ気持ちが良いですね。伏線回収モノが好きな私には結構刺さる作品でした。
「火曜日」が水曜日にも行動できるようになって「一週間が二日あるって素晴らしい」「世界が違って見える」と漏らしていましたが、これは今作で一番突き刺さるセリフでした。私の一週間は7日間もあるのに、この「火曜日」ほど有意義に過ごせているかと言われれば微妙です。本作で一番の名台詞じゃないでしょうか。
凄い気になってしまったんですけど、主人公の収入源って何なんでしょうね。主人公が働いているような描写はほとんどないのに、人数分の家財を用意して、一人暮らしには広すぎる家に住んで、車まで購入できる財力を持っている。木曜日がイラストレーターやっている描写はありますが、週に1日だけイラストレーターの仕事をしてあれだけ稼げるとは思えませんし、多重人格の研究に協力する描写があるので謝礼金を受け取っているのかもしれないですが、きたろうさんが演じる冴えない医者の安藤に、彼の生活を支えるに足る謝礼を支払えるとは思えませんし。設定や世界観を伝えるためとか尺の都合とかで敢えて描かなかったのかもしれませんが、私はどうにも気になってしまって、何となく映画を観ている際にノイズになってしまった気がします。この映画唯一の不満点です。
ほんの些細な不満点はありますが、映画全体で観れば非常に楽しめる一作でした。多くの人にお勧めしたい作品です。