「共存」水曜日が消えた U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
共存
斬新なコンセプトだった。
「全部違ってて全部良い」って切り口の多重人格者の話なのか、それとも地球に点在する異文化達の話なのか…多分、違うだろうけど。なぜだかハッピーな気持ちになれる。
ミステリーなのだと思い、ミステリーっぽくも作ってあるのだが、ミステリーが前面に出てくる事はなかった。7人の人格を有する「斎藤数馬」って人物が主人公。ある日、水曜日を担当する人格が消える。
多重人格の治療としての到達点は統合であり、この話も当初そういう前提で話が進む。
消えていく日が増え、主人格が予想だにしない出来事が増えていく。自分自身が自分自身の知らない事をやってる恐怖ってのが中盤になって語られだす。
それまでは順応していた7人だが、徐々にその歯車は狂い出す。
…どうなっていくんだ?
その7人全員と面識がある女性。
彼女の目線や仕草はいちいち意味深だ。
当初「睡眠」という行為を経て入れ替わる人格は、その境界があやふやになっていく。
物語冒頭から、誰も主人公を固有名詞で呼ばない。まるで物語の核をなんとか隠し通そうとするかの語り口調だ。
8人目の人格が生まれたんじゃないか?いや、元々8人だったんじゃないか?
瞬間的に途切れる記憶。
事あるごとに差し込まれる事故の記憶。
割れたバックミラーに映し出される分裂していく鳥。
スマホの録画機能を使い語りかける粗暴な別人格。
冒頭から丹念に撒かれたピースが不協和音の如く存在感を醸し出す。
水曜日が消えた事をキッカケに主導権争いが始まるのか?
いよいよ、いよいよ物語は動き出し、どんな収束を迎えるのか?
そして、また朝が来る…。
極上のミステリーの破片に期待感は最高潮だ。
そんな期待をあっさり裏切り、物語は平穏な結末を迎える…。
「ええええええええっ!?」
あんな事やこんな事も出来るじゃない?
あの要素だって入るよね?
そっち方面に膨らんだ方がスリリングじゃないの?
大きなお世話だ。
彼らは7人の人格に戻り「対話」をもって「斎藤数馬」という人物を運営していく事に決めたみたいだ。
ある意味、エンドロールが最終章だった。
極上のミステリーの欠片達は、多重人格コメディっていう斬新で極上のコメディに姿を変えてた。
1つの母体に7人の人格。
主導権を争うではなく、他を尊重し、対話をもってその母体を運営していく。
エンドロールを見ながら、俺の頭に浮かぶのは「世界に1つだけの花」って曲だ。
そんな事から地球っていう母星が浮かんだ。
拡大解釈だとは思うけど、世界の覇権や環境問題。紛争や戦争。母体が滅べば、それらは全て意味の無い事になり自殺行為とも等しい。
てっきり中村倫也劇場なのかと予想してた本作。7人の人格は映し出されるのだが、そこに比重はなく、皆さん実に穏和で良い人達ばかりだった。
ちょいと終盤ににかけての種明かしが不明瞭で、人物達の動機にも疑問が拭えきれずで残念だった。
おそらくならば、中村氏の資質がこの作品に及ぼした功績は相当なもので…彼ありきで企画されたと言われても納得してしまう。
一癖ある良質なコメディだと思えたのは、中村氏のおかげだと思われる。