「地味目なのは分かっちゃいるが、個人的には今年暫定ベストな一作。」ラーヤと龍の王国 yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
地味目なのは分かっちゃいるが、個人的には今年暫定ベストな一作。
作中の様々な要素が「刺さった」という全くもって個人的な理由により、「今年の暫定ベストワン」作品となりました。
明確にカラーコントロールされた画面はどのシーンも非常に美しく、特に緑と水、そして砂漠の黄土色は強烈に印象的です。登場人物の現実感も尋常ではなく、これはCG技術の飛躍的なアップグレードに加えて、重力と筋力の物理的制約を盛り込んだ所作も大きく影響していると感じました。要するに、従来のフルCGアニメのキャラクターが見せるような、軽やかでメリハリの効いた動きに代わって、むしろやや鈍重とも言えるような動作なのです。しかしこの「重み」を感じさせる所作のため、ラーヤの持つ剣の切れ味、格闘する際に手や足にかかる衝撃が、画面外にも伝わってきます。
『アナと雪の女王』のような、荘厳かつ華やかな中世ヨーロッパ的な世界観に代わって、森と水、そして砂漠に囲まれた本作の世界は一見地味な印象を与えます。一方であるお姫様がハーフモヒカンだったりと、現代のモードもしっかり取り入れており、この辺りはポリネシア文化を前面に出した『モアナと伝説の海』(2016)とはやや異なり、バランスを重視した美術となっています。
物語の舞台が5つの王国に分かれていることも、作中に様々な文化的要素を混在させることができた要因となっています。それぞれの王国は明確なカラーと文化を持っているので、ヴァイキングの文化とモダンアートのような文化を並列してもあまり違和感を感じさせないのです。この辺りの美術設計は見事と言わざるを得ません。
一方で、舞台を5つに分割することは、作品に利点と不利点をもたらしました。利点としては、ラーヤが旅の途上で仲間を得ていく、という、ロールプレイングゲームのように明確でテンポの良い構成となった、という点です。一方、本作の上映時間を踏まえると5つの舞台はどう考えても多すぎていて、じっくりと雰囲気を楽しむ余裕が少なくなっています。特に、作中でラーヤとその仲間達は、「家族」に対して何らかの問題を抱えていることが示唆されているのですが、ごく短い説明以上には掘り下げていません。この点は、それぞれのキャラクターが魅力的に描かれているだけに、やや物足りなく感じました。風景描写も素晴らしいのに、それをじっくり鑑賞する余地が少ないことも残念でした。
要するに本作で数少ない欠点を上げるとしたら、「上映時間が短すぎる」ということに尽きます。
最後に、ラーヤは冒頭である「技法」を用いていたのですが、なかなかマイナーな「それ」を本作で取り上げてくれた監督に、「ありがとう!」と密かに心の中で感謝を捧げました。