「夢を追い求めないことの幸せが心に響く」ソウルフル・ワールド tomatoさんの映画レビュー(感想・評価)
夢を追い求めないことの幸せが心に響く
死んでしまった人間が、生き返るために奮闘する話に、特に目新しさはないのだが、見終わった後に感じるメッセージは、相当にユニークだ。
普通だったら、生前に残してきた未練、すなわち、叶えることができなかった「夢」を実現させてハッピーエンドとなるところだが、この映画は、叶うかどうか分からない「夢」よりも、平凡な「日常」に目を向けろと訴えるのである。
自分自身に、夢を追い続けた経験が無いせいか、夢が叶っても心が満たされないという感覚には、今一つ実感が持てないものの、日常の些細な出来事に嬉しさや楽しさを見い出すことの素晴らしさは、その通りだと納得することができる。
それと同時に、夢を叶えることは、幸せになるという「目的」を達成するための「手段」のはずなのに、夢を叶えること自体が目的化してしまい、かえって不幸になってしまう危険性すら理解できるのである。
確かに、夢が叶わなかった不遇を嘆き続けるよりも、日々の生活に満足し、喜びを感じる方が、間違いなく幸せな人生と言えるだろう。
そこには、ヴィム・ヴェンダースの「PARFECT DAYS」にも合い通じる、ミニマルな人生観を感じ取ることもできる。
映画としては、死者の魂、生まれる前の魂、幽体離脱?した生者の魂が混在する「魂の世界」についての情報量が多過ぎて、なかなか理解が追いつかないのだが、生き返りたい主人公と生まれたくない「22番」の冒険になってからは、バディ・ムービーとして楽しめる。
主人公の体の「22番」と猫の体の主人公とのドタバタ劇はスリルがあって面白いし、ジャズの演奏シーンも、見応え・聴き応えに満ちているが、前述の通り、主人公が夢を叶えただけでは終わらないラストの展開には、正直、驚かされた。
それだけに、「1日1日を大切に生きる」という主人公の言葉が、殊更、心に響くのである。