「やや宗教めいたテーマをアニメで上手に中和」ソウルフル・ワールド うそつきカモメさんの映画レビュー(感想・評価)
やや宗教めいたテーマをアニメで上手に中和
ディズニー版(いやピクサー版か)やや宗教めいた魂の物語。それは死生観であり、生き方を問うもの。
それがなぜ子供たちにやさしいアニメーションの体裁をとって我々の前に現れたのか。コロナ前に完成していたものが、公開延期になって、最終的にクリスマス配信になった。
このコロナ禍にずいぶん意味あり気だ。例えば『素晴らしき哉、人生!』みたいな成功例もあることだし、これを見て救われた人がたくさんいればそれで許容されることなのだろう。でもなんでピクサーなんだろう?
この映画における価値観は問題ありありだ。
ジャンク菓子を食べるキャラクターに『加工食品は食べちゃダメ』とか、安い給料で公立校の音楽教師をやりながら、市井のジャズクラブで夜な夜な行われているであろうセッションに上位概念を植え付ける印象操作とか、地下鉄のホームで歌うミュージシャンに価値を与えたりとか、各所にディズニーなりの価値観を散りばめてある。
それが押しつけがましくならないために、あの独特の省略されたキャラクターになったのだろうと思う。なぜなら、天上界での事務員たちは、天使なのか、神なのかはっきりしない。彼らはサリーを着ていないし、ブルカを着ていないし、チマチョゴリを着ていない。肌に色もないし、髪の毛も縮れていなければ、鼻がつぶれてもいない。
特徴のないことが特徴なのだ。言わば世界市民とでも言う存在なのだろう。この部分は、アニメのキャラクターであることで成功している。もし実写で撮るなら仮面をつけるなどの演出になるだろうが、それでも年寄りなのか、男なのかなど、なんとなく伝わってしまう。アニメならではの成功例だ。
世界中の子供たちに届けるためにいちばんスマートだと思われる手段を取ったのだろう。いままでのピクサー作品にない野心的な取り組みだ。まず、内容云々よりそこが気になった。娯楽に忍ばせて人の心の中を支配しようとする。悪魔は、きっと魅力的に私の耳元で囁く。
まあ、そんなひねくれた難しい話は置いといて、単純に「生きる」ということに主眼を置いて展開すると、実に魅力的に日常が描かれている。まるで明日死んでしまうかのように、身の回りのありふれたものを美しくいとおしく見せてくれる。この映画を見た後は、まるで魔法にかかったように目に飛び込んでくるものが魅力的に映るはずだ。
たとえそれが、映画館を飛び出して、ショッピングモールのウインドウに映るドレスアップされた自分の姿であっても、ひと時だけ、上質の時間を過ごすことが出来る。
そのお手伝いが出来る、床屋さんであり、仕立て屋さんであり、料理人、エンターテイナーなのだと教えてくれる。そして何気なく風に舞う花びらに、この世界に愛おしさを込めて魂を震わせる男の「ゾーンに入る」さまは、まさに白眉。アニメーションがここまで表現できることに感動した。
ちなみに今回字幕スーパーで鑑賞。日本語吹き替え版は見ていません。
2020.12.28