劇場公開日 2019年12月20日

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「現実を想像できる者は少ない byゲーテ」テッド・バンディ 唐揚げさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5現実を想像できる者は少ない byゲーテ

2021年11月21日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

悲しい

知的

難しい

IQ160以上の頭脳と美しい容姿を持ちながら、30人以上の女性を惨殺し、全米を大きく揺るがした元祖シリアルキラーの実話を元にした作品。

なんとも言えない。
これがシリアルキラーというものか。
この殺人鬼は決して肯定できるものではない。
しかし、この映画を観た感想として完全否定もできないのだ。
内容とは裏腹に斬殺シーンや裏の顔の表現をほぼ省き、テッド・バンディの人間らしさを追求する。
容姿や立ち振る舞いはもちろんのこと、自ら弁護人となり自身を弁護しようとする姿に、途中から彼が連続殺人鬼だということを完全に忘れてしまった。
実際、当時の世論もそうだったのだろう。
あんな賢く優しそうなイケメンがこんな残忍な事件を起こすわけがないと。

何故彼はリズだけ殺さなかったのか。
はじめは彼が初めて見つけた本当の愛なのだと思ったが、結局のところよく分からない。
あんなに愛していたはずなのに、避けられると途端に愛は冷め、獄中でさえ他の女に乗り換える。
とはいえ、彼にとってリズは確実に特別な存在だったのだろう。
劇中最も惹きつけられた面会シーン。
彼をずっと信じ続けて、電気椅子に座る何倍もの苦しみを負ったリズの怒りや憤りの詰まった問いかけに、彼の心は揺れて、あの瞬間彼の作り上げた嘘が崩れ落ちたはずだ。

演じたザック・エフロンを通して、テッド・バンディ本人に欺かれた。
彼に少しでも人間性を認めてしまったことが間違いだった。
ただ、きっかけは本人でも彼を邪悪で凶悪で卑劣な殺人鬼に仕立て上げたのは、他の要因だったのかもしれない。
報道により捲し立てたマスコミ、3度も脱獄させてしまった刑務所、彼の思いなど全く無視し捜査を行なった警察、信頼関係がまるでなかった弁護士。
テッド・バンディの悪は否定しようがないが、処刑を知り喜ぶ人々の実際の映像を見て、なんだかやりきれない気持ちになった。
たとえ悪が倒れても、リズを含めた被害者の無念が晴れることはない。

唐揚げ