テッド・バンディ : 映画評論・批評
2019年12月3日更新
2019年12月20日よりTOHOシネマズシャンテほかにてロードショー
魅力的な男の隠れた狂気。倫理感と感情の間に潜む危うい境目を浮き彫りにしていく
1人のシングルマザーの前に現れたハンサムな青年が、バーで彼女に優しく声をかけてくる。その洗練された物腰と、相手を見つめる透き通った眼差しで、一瞬にして女性の心を虜にしてしまう男の正体は、稀代の殺人鬼として全米を震撼させたシリアルキラーの元祖、テッド・バンディだった。
1974年から78年にかけて、実に7つの州で30人の女性を惨殺したバンディには、いわゆる凶悪犯のイメージは皆無で、むしろ、他人の心を惹きつける不思議な魅力があったと言われる。それがどのようなものだったかを、本作は冒頭で書いたような出会いをきっかけに親密になる法律事務所の職員、リズの視点で描いていく。我が家で寝食を共にし、幼い娘モリーの心も掴んでいる最愛の恋人が、一方で、連続殺人事件の容疑者として警察に追われ、逮捕される。獄中から電話をかけてきて、「自分は無実だ」と懸命に主張する。いったい、彼の真意は? 素顔は? 本性は? リズの混乱は、そのまま観客にも伝染して、人間の倫理感と感情の間に潜む、とても危うい境目を浮き彫りにしていく。
監督のジョー・バーリンジャーはバンディの時代とその人物像に迫ったTVドキュメント「殺人鬼との対談:テッド・バンディの場合」(19 Netflix)も演出している。死刑囚監房でのバンディ本人へのインタビューと、関係者への取材、そして、事件当時のアーカイブ映像で構成された全4編235分の番組は、謎めいた男の生い立ちとその後、事件の背景を徹底的に検証する。DNA鑑定は勿論開発前で、データを郵送でしか交換できなかったインターネット以前の事件捜査の限界も描いていて、それはそれで興味深い。一方、映画版はバンディと関わった女性たちの中で、結果的には、唯一殺されなかった恋人リズ(ドキュメンタリーにも登場する)を主軸にすることで、心理ミステリーとして、また葛藤のドラマとして人を惹きつける独特の作品に仕上がった。
何よりも、実物のバンディと目元がそっくりで(青い目が吸引力になっていたとか)、女性を魅了せずにはおかない風貌が隠れた狂気を逆に想像させるザック・エフロンが適役だ。シリアル“セックス”キラーとも呼ばれたバンディの片鱗が垣間見られるシーンも含めて、青春アイドル→マッチョスターときて、今現在、新たな境地を模索するエフロンが製作総指揮も兼ねた勝負作として、これを見届けるべきではないだろうか。
(清藤秀人)