「灰汁のある作品だが感動できる作品」劇場版「鬼滅の刃」無限列車編 葵須さんの映画レビュー(感想・評価)
灰汁のある作品だが感動できる作品
それぞれのキャラクタの作品が立っている。作品中で成長していく三人組はそれぞれ炭治郎を除いて明確な欠点をもっており、対して煉獄は変わってはいるが信念が完全に固まっておりゆらぎ無く彼が三人を導くことになんの違和感もない。
何が見どころかといえば、煉獄と炭治郎の動きだ。煉獄はゆらぎない信念で三人を導く。その生き様はほれぼれし、胸が熱くなるものでもある。対して炭治郎は力はまだ弱いが、今回の事件を解決する糸を最初に見つけ、煉獄さえもできなかったことを成し遂げている。その理由は、煉獄のインパクトに負けており、主人公=視聴者の代弁者的な立ち位置であるために見えにくいが、炭治郎には真実を見抜く嗅覚と煉獄に負けない家族愛があるからだ。
今作で面白い場面は四つある。一つは呼吸法。呼吸法はこの作品が一貫して扱う一つのシステムであるのだが、実際の現実において呼吸法はストレス社会で精神や健康のために瞑想やヨガとともに勧められるものだ。スポーツやダイビングの世界でもやられているものであるが。ジョジョという作品においてもあったが、今作品の人気によってまた一般社会に知られる言葉となった。この作品から実際の呼吸法を知り行う人が増えたのならば、それはまたこの作品の世界への貢献として良いものがあるだろう(そんなあいまいな一般論をここで言う意味はあまりないと思うが)。2つ目は敵の技が、実際のスピリチュアルなシステムに近似する可能性があること。スピリチュアルなシステムを作品の中に盛り込むものは多いが、自然に描けているものは少ない。そして、今作の多くの時間を割いて行われる夢の中での攻防が、実際に行われれいると私が信じている、アストラル界での攻防に近似している可能性を感じたことだ。3つ目は、炭治郎が夢の中で自意識を蘇らせるきっかけとなった、夢の中での父親の助言、湖面に写った自分を叱咤する自分の顔である。守護霊が夢の中に現れたと考えればよいかもしれない。4つ目はそれぞれのキャラクタの核の描写だ。これについてはリアリティがあるのか何も感想を述べることはできないが、炭治郎の美しい核の描写が印象に残る。
敵と戦う系の漫画、エンタメ作品を見たがらない人は一定数いると思う。血なまぐさいのは駄目だという人や、感動モノ、恋愛ものしか見ないという人等。そういう人にこの場を持っておすすめしたいのは、敵を自分の中のエゴとして内面化して見ること、作品全体を自分の中の葛藤を暗示するものとして見ることだ。そうすれば、全てが学びとなる。
今作で一番心を動かされる場面は煉獄が自分より強い鬼と相対する場面だ。最後までブレず自分を貫く姿には心を打たれずにいられない。
灰汁と私が書いた所は、7割以上が炭治郎に対するものであるが、自分の心境を語る言葉の数が多すぎて説明過多と感じるかもしれない部分があることと、コメディ要素が強くですぎている部分があるかもしれないということだ。こういう部分は作品の味ではあるが、新参者が見た時になんだこれは?と思わせる危険性があると思う。
最後に、魘夢という鬼(敵を眠らせる奴)が負けた時に自分の心境を述懐する場面は、敵を邪悪なものとして描いて切り捨てる多くのバトルもの作品と趣を異とするものであり、面白く感じた。