劇場公開日 2020年1月31日

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「ミステリーの皮を被った現代風刺映画」ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密 andhyphenさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0ミステリーの皮を被った現代風刺映画

2020年2月6日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

NHK BS1で朝放送している「キャッチ!世界のトップニュース」というニュース番組があるのだが、月1回藤原帰一氏が映画と世相を絡めて語るコーナーがある。先日そのコーナーで「パラサイト 半地下の家族」と本作が一緒に紹介されていて、「?」と思ったが、なるほど観終えると確かにそうだなあ、と腑に落ちた。
とはいえ、まあ、ストーリーはどこからどう見てもアガサ・クリスティを意識した、というかパロったコメディミステリーである。
何を書いてもネタバレになりそうだが、亡くなるのはクリストファー・プラマーおじいちゃん演ずる、偉大なるミステリー作家のハーラン・スロンビーである。もう90とかだと思うのだが、クリストファー・プラマー、若返ってないか...?家族の誰よりも生気があるんだが...。
クリストファー・プラマーおじいちゃんの家は、横溝正史的にいえば犬神家様にドロドロである。君臨する当主とその恩恵に預かる家族というのは、古今東西、ミステリーには欠かせぬ存在である。
そしてアメリカ英語を嬉々として喋る名探偵ダニエル・クレイグ。彼はジェームズ・ボンドの軛を外すと本当に楽しそうねえ..(彼が解決したのが「テニス殺人事件」てそれ「ゴルフ場殺人事件」のパロディですか?)
ミステリーとしては結構強引なつくりというか、「どうしてこうなった」みたいなところが結構あるし、ある種予想どおりの展開というか、ヒントのばら撒きが半端ない親切設計である。映像だから余計に。
また、登場人物皆怪しげなのに描き方が軽いので、本格ミステリ愛好家にとっては若干物足りない。
しかしこの物語は明解に「格差」を描いている。持てる者(というか貰えた者)持たざる者。アナ・デ・アルマス演じる超キュートで善良な看護師マルタを「受け入れてあげた」という家族の奢り。クリストファー・プラマーおじいちゃんこりゃ家族に愛想尽かすわ。
要するにこれは「古典的探偵映画」の皮を被った、「持てる者」の無意識的優越感をぶっ壊す映画な訳だ。パーティでの移民に関する議論とかあからさまだよね。
だからこその「持たざる者」マルタの描き方なのである。持てる者と持たざる者を極端に対比する為のキャラクター造型。そしてその「悪」を暴くのが、些か時代がかった名探偵・ダニエル・クレイグに課せられた役割。
クリストファー・プラマーおじいちゃんがいちばん若く見えてしまう一家の面子、皆さん癖があってよかったですね。ジェイミー・リー・カーティスがいちばん強そうでした。トニ・コレットがインフルエンサーというのも絶妙だな!そして男性はみみっちいな!とか思ったり...。マイケル・シャノン...。
クリス・エヴァンスの役は「おいしい」です。まあ彼も楽しそうよね...と思ってしまう。
そしてアナ・デ・アルマスさん。ザ・純朴!どうもキリッと美女のイメージが強かったんですが、今回の彼女はキュートですね。
方々に小ネタが仕込んであるのも面白かったです。「リング」の話とか。マルタのお母さんがテレビで見てたのが「ジェシカおばさんの事件簿」だったとか。ジェシカおばさんて英語喋るんだ...!と思ったらあれはスペイン語版らしい。(私の中では森光子が喋る)

andhyphen