「マンガから映画へ」約束のネバーランド 山川夏子さんの映画レビュー(感想・評価)
マンガから映画へ
少年ジャンプに連載していた少年マンガが原作だそうです。マンガからアニメ化され、さらに映画化された作品だそうです。
私はマンガもアニメも観ていなかったのですが、ストーリーがカズオ・イシグロの小説『私を離さないで』に似てるという噂を聞いて、観ることにしました。
ストーリーは、子供達を敷地の外に出すことを禁じて、世間から隔離して生活をさせている孤児院の話です。子供達を育てる「ママ」、最年長組のエマ、レイ、ノーマンの3人組がお兄さんお姉さんとして、ママと一緒に幼い子供達の面倒をみながら楽しく暮らしています。でも、彼等はまもなくここを卒業して外の世界に出ていかなくてはならない……というところから話が始まるファンタスティック・ホラーな群像劇です。
子供達を育てる「ママ」に北川景子さん。活発な女の子エマ、クールな男の子レイ、優しくて賢くてノーマン。この三人がストーリーの中心になりますが、レイ役を演じたのが是枝監督の映画『万引き家族』の万引き少年を演じてカンヌに行った城桧吏さん。エマに浜辺美波さん、ノーマンに板垣李光人さん。
孤児院の制服や建物から察するに舞台は英国で、役名も英国人の名前の役柄を日本人俳優が演じているので、全体的にファンタジックでフワッとした感じになっています。
例外は「ママ」を演じる北川景子さんです。
子供達に愛されながらも恐怖の存在として孤児院の同心円の真ん中にいるママ。映画のフレームの中にいるだけで、彼女にカメラの焦点が合っているかのように彼女に目が行ってしまいます。これが「主役をはれる女優の存在感」というものなんでしょうか。孤児院の子供達の命を預かりコントロールする圧倒的な存在「ママ」。子供達が大好きなのはやっぱり「ママ」。
ママを中心として同心円の中で生きる子供達――優しくて、ふわっとした空気感を持った俳優さんたちが選ばれていて、ストーリーのなかでママとの距離感で、気配を消したり現わしたりします。
母親が原因で生きるのが苦しいと感じている少年少女の皆さんが、この映画を観て「もしかして自分の母親は人間的に問題があるんじゃないか」と母源病の存在に気が付くきっかけになるかもしれないし、もしくは過干渉の母親が「うちあたい」(沖縄の言葉で、自ら気が付く)して反省して生き方を改めてくれるかもしれない。母子の関係で悩んでいる方がこの映画を観て、救われることがあるかもしれません。
この映画はファンタジーで、子供を応援する映画です。
私は恐怖映画が大の苦手ですが、実際にあったらおぞましい世界の話ながら、このフワッとした空気感のおかげで、子供さんや恐怖映画が嫌いな人でも「これはファンタジー、おとぎ話だ」と安心して観ることができます。恐怖映画が大好きな人には物足りないと思います。
勇気を振り絞って闘う子供達を観ながら、「子供達頑張れ!」と子供達を応援して、子供を愛でる映画です。ビターでシニカルな話が好きな大人向きの映画ではありません。是枝監督の『万引き家族』の万引き少年・城桧吏さんも、この映画では、ひたすら漫画のキャラクターに寄せた演技をされています。子役ですが城桧吏さん、器用な俳優さんなんですね。
城桧吏さんが将来、どういう役者さんに成長するのか。いつか、この映画は「変声期の少年時代の城桧吏さんが見られる映画」として知られるようになる日がくるのか、これからの城さんの成長に期待したいです。