劇場公開日 2020年12月18日

「楽しく鑑賞できる作品」約束のネバーランド 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5楽しく鑑賞できる作品

2020年12月27日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 浜辺美波は映画「君の膵臓をたべたい」が初見だった。当時17歳。若いのに演技が達者で、不思議な存在感のある女優さんだと思った。映画「渇き。」で小松菜奈を初めて見たときに似た印象だ。昨年(2019年)の夏に映画「アルキメデスの大戦」で見て、前回見たときよりも段違いに演技力が向上しているのに驚いた。そして今回は更にパワーアップした演技を見せている。加えて、その軽やかな身のこなしにも感心した。相当な身体能力である。もしかしたら今後、アクション映画にもオファーが来るかもしれない。
 北川景子は前回の出演作である映画「ドクター・デスの遺産 BLACK FILE」のレビューでは「演技もレシピ通りの気がする」と書いたが、本作では一皮剥けて、美しさの中に怖ろしさを秘めた寮母イザベラを迫力たっぷりに演じていた。特筆すべきはその声である。声の美しさは日本の女優の中では群を抜いていると思う。こんなに美しくて声量のある声を出せるとは思っていなかった。もはやレシピ通りどころではない。大変失礼した。一児の母になったことで従来よりパワフルになった気がする。来年は「ファーストラヴ」や「キネマの神様」の2本が早くも公開されるように、映画では引っ張りだこだ。もし自分が映画の監督やプロデューサーだとしても、やはりこの女優さんを使いたいと思うに違いない。

 テンポのいい作品である。浜辺美波と北川景子を除けば学芸会レベルの演技も散見されたが、誰が嘘を吐いて誰が本当のことを言っているのかという緊張感で場を持たせ、渡辺直美のクローネが登場するあたりから俄然面白くなってくる。頭脳明晰なノーマンと戦略家のイザベラの知恵比べが後半の見どころとなる。
 世界観はジブリ作品に似ていて、非現実的な設定をしてその設定のまま物語が進んでいく。施設のインフラや食料供給とゴミの排出などがどうなっているのかが少し気になったが、そのあたりを明らかにするシーンはなかった。もう少し施設の運営状況を説明するシーンがあったらリアリティが増したと思う。
 現実世界の問題を浮き彫りにしたりする作品ではなく、鑑賞したあとに引きずるものは何もないが、楽しく鑑賞できる作品ではあると思う。「ママ」が役職のように扱われているのと、「ママ」が少しも歳を取らないところがいい。北川景子の「さようなら」や「チェックメイト」という美しい声だけがいつまでも耳に残る。

耶馬英彦