「死んでも出られぬ緑の地獄」イン・ザ・トール・グラス 狂気の迷路 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5死んでも出られぬ緑の地獄

2019年10月8日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:VOD

怖い

Netflix独占配信作品。ホラー作家スティーヴン・キング
とその息子ジョー・ヒルが共著した同名の短編小説を、
『CUBE』などの不条理スリラーを得意とする監督
ヴィンチェンゾ・ナタリが映画化したホラー作。

人里離れた直線道路をドライブするカルと、妊娠中の
その妹ベッキー。ふと車を止めた時、二人は道路脇の
高い草むらから、幼い子供が助けを求める声を聞く。
子供を助けようと草むらに入る二人だったが、
人の背丈よりも高い草むらをいくら掻き分けても、
その子供の元に辿り着けない。おまけに、大して
間を置かずに入ったはずのお互いの姿も見えない。
声を頼りに近付いても、なぜか出会えない。
携帯電話もつながらず、道路にも戻れない。
この草むらは何なのか?
一体どうしたら抜け出せるのか?

...

「高い草むらからどうしても出られない」
という超シンプルなアイデア。
僕はこの手の奇怪な話が大好きでワクワクするのだが、
さすがにそのアイデアのみだとせいぜい『世にも奇妙な
物語』の一篇ほどの長さしか持たなそう。だが本作は、
そこに様々な要素を絡めて90分間飽きさせない。

方角も時間もトチ狂った迷宮のような展開、
草地の中心に鎮座する謎の黒い巨石、
その巨石を御神体として太古から
引き継がれてきたと思しき土着宗教、
そして草むらに潜む、旧く邪悪な何か――

S・キングのファンの方なら、同じくキング著
『トウモロコシ畑の子供たち』を連想するだろう。
『IT』『ペットセマタリー』等と同じく、
有史以前から存在する邪悪な存在が絡む
恐怖譚と思っていただければ良いと思う。

...

海のように広くうねる草地が人を呑み込む様、
砂で曇ったステンドグラスから鈍い光の射す廃教会、
虫・草露・鴉の瞳の接写、空に混じる血煙、泥穴から
覗く無数の◯◯など、インパクトのある映像が良い。
泥を踏み締める音、草が肌を擦るざらりとした音、
謎の巨石の唸りなど、不穏さを掻き立てる音も良い。

出演者は6人だけだが、
ミステリアスなトービン少年は物語が進む
につれてその役割や思いが見えてくるし、中盤
から登場するあの人物の選択には胸が熱くなる。
あと『死霊館』のエド・ウォーレン役で
知られるパトリック・ウィルソンが最高だ!
何が最高かって? そりゃもうあのにこやかな
笑顔で色々と……最高だ!!(答えになってない)

いきなりビックリさせるような演出はほぼ無く、
血や肉がモシャーッとなるグロテスク描写も少なめ。
だが心理的にエグイ方向での描写が多めで、
終盤では相当におぞましく不快な残酷描写
があるので注意。特に女性の方は注意かも。

上記の残酷表現が人を選ぶ他は、
中盤あたりから映像表現がしつこく間延び
して感じてしまう所があるのが不満点かな。
あとは最後の決着もややアッサリ。
草むらに潜む“何か”ももっと見たかったなあ。
まぁあんまり見せ過ぎるのも興醒めなので
そこは難しい塩梅なんだろうけれども。

...

以上です。総合的には、面白かった!
パトリック・ウィルソンが最高だ!!(うるさい)

個人判定は3.75くらいなのだが……最近で言えば
『アナベル:死霊博物館』と同じくらいに楽しめた
と思うんで、ちょいと厳しめかもだが3.5判定です。

<2019.10.06鑑賞>
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余談:
“スティーヴン・キングの息子ジョー・ヒル”と
聞いて「はいはい親の七光り」とか考えた貴方、
狂犬病のセントバーナードと墓から甦った
灰色の凶悪にゃんこに追い掛け回されなさい。

彼は'05年発表の短編集『20世紀の幽霊たち』で
ブラム・ストーカー賞と英国幻想文学大賞を受賞
した新鋭で、映画『ホーンズ/容疑者と
告白の角』やAmazonPrime制作ドラマ
『NOS4A2:ノスフェラトゥ』の原作者。
父譲りの筆致に加えて瑞々しさも
感じさせる文章で面白いです。
ま、そんな偉そうなこと言って、自分もまだ
『20世紀の幽霊たち』しか読んでないんすけどね!
アハハ失敬失敬!(背後に迫るセントバーナード)

浮遊きびなご