劇場公開日 2021年4月2日

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「いい作品だが実際の農水省が何をやっているかを勘違いされると困る」種まく旅人 華蓮(ハス)のかがやき 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5いい作品だが実際の農水省が何をやっているかを勘違いされると困る

2021年4月8日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 農林水産省のプロパガンダみたいな作品なのに、何故か感動する。この8年間の政治が腐っていたから、政治家も役人もみんな腐っているというバイアスが出来上がっているのかもしれない。それはそうだろう。モリカケ桜の疑惑まみれで国会で100回以上も嘘を吐いたアベシンゾウから、アベ政治を支え続けて、総理になったらアベ政治を受け継ぐと宣言したガースーことカス総理に至る8年間の政治を見てきたら、政治は裏取引と圧力関係と嘘で出来ていると思うのは仕方のないことだ。おまけに最近露出が増えた二階幹事長の悪どい顔を見たら、政治に何も期待しなくなってしまうのも仕方のないところである。
 栗山千明は本作品の主人公神野恵子を殊更に明るく正しく演じている。農水省の職員にこんな人がいたら少しは希望が持てるかもしれないと思うほどである。平岡祐太が演じた信用金庫に勤める山田良一をめぐるサブストーリーに神野恵子が絡んで大団円に至る、ベタだが爽快な展開に心が躍る。
 久々に純粋に美しい映画を観たが、実際の農水省は農家を苦しめることばかりをしている。種子法を廃止して種苗法を改定、結果として農家は自家増殖が禁止され、種を購入しなければならなくなった。売るのはいち早く種を知的財産権として登録したアメリカのコングロマリットである。
種子法廃止と同時に成立した農業競争力強化支援法では地方自治体はそういうコングロマリットと同等の条件で競争しなければならないとされている。「支援法」と名のついた法律に障害者自立支援法があるが、障害者への援助を断ち切り、自分でなんとか生きていくしかない境遇に追い込むという血も涙もない法律である。
 農業競争力強化支援法も同じで、農家を窮地に追い込む法律である。つまり、農家への地方自治体の安価で優良な種苗の供給を禁止し、採算が取れる価格で売らなければならないと強制する。そして採算ベースで言えばコングロマリットに敵わないから、農家はコングロマリットの提供する種を買わざるを得ない。そしてコングロマリットは種と肥料と農薬をセット販売する。農家の負担は更に増大する。
 コングロマリットが提供するのはGMO(遺伝子組み換え作物)である。GMOはガンや奇形の原因とされているが、日本は法律を変えてGMOを知的財産として保護されることにした。GMOは虫を寄せ付けないから農薬は不要で、GMO以外の種を使う場合は農薬が必要となる。どう転んでもコングロマリットが儲かる仕組みになっている。
 簡単にいうと、アベースガ政権は、国民の健康をアメリカに売り渡したのだ。本作品は感動的でいい作品だと思うが、実際の農水省が何をやっているかを勘違いされると困る。農水省のダークサイドもサブストーリーとして組み込めば、日本の農業の実態が立体的に見えてくる作品になったと思う。

耶馬英彦