「たまたまバーでナンパした娘の育ての親がランボーでした」ランボー ラスト・ブラッド よねさんの映画レビュー(感想・評価)
たまたまバーでナンパした娘の育ての親がランボーでした
元グリーンベレーのジョン・ランボーは数々の死闘の果てにアリゾナの故郷に戻り、父親の代から世話になっていた家政婦マリアとその孫で大学進学を控えたガブリエラの3人でひっそりと暮らしていた。災害時には救助ボランティアも買って出るジョンだったがかつての戦いで負った心の傷は癒えるどころか自然の脅威の前に自身が余りにも無力であることを思い知らされる。そんなジョンの心の支えは実の娘のように育ててきたガブリエラ。メキシコに移住した友人が見つけたという実父に会いに行きたいという彼女をなんとか説き伏せて思い留まらせたが・・・。
要するにこれはひとことで言うとこんな映画です。
“たまたまバーでナンパした娘の育ての親がランボーでした”
そんな死のサマージャンボ宝くじを当てたバカ達がこれでもかとブチ殺される因果応報ドラマ。12年前の前作『ランボー 最後の戦場』のエンディングとオーバーラップする序盤で何の脈絡もなく提示される陰惨なワンカットでまずこりゃ並のB級アクションではないと感じつつもちっともランボー感がない静かなイントロ。馬の調教に精を出す牧場主ランボーは精神安定剤をメントスのように摂取する体たらくですが、宮川大輔にしか見えないガブリエラがイッテQ的なガッツを見せたところからドラマがコロコロと転がり始め、いきなりトップギアにシフトしたランボーのスキル発動がハンパない。予告に映ってるのはツカミだけで、飛んで火にいる夏の人身売買組織の方々はそりゃあ大変な目に遭うわけですが、この辺りのレッドゾーンに振り切ったグロ描写はちゃんと心の準備が出来ている人だけが直視できるやつです。だいたい百戦錬磨の兵士たちと戦い続けたランボーの前になんちゃって軍事教練を受けただけっぽいチンピラなんて赤子の手を捻るようなもの。その余りにもエゲツないバラエティに富んだ殺戮フルコースに大爆笑、要するにもはやアクション映画ではなくて、景気のいいスプラッター映画版『ホーム・アローン』と化しています。しかし『ターミネーター:ニュー・フェイト』といい、これといい80’sマッチョアクションを牽引した先輩方のラテン志向は実に清々しいです。ちなみに監督はメル・ギブソン主演のB級ラテンアクションの佳作『キックオーバー』のエイドリアン・グランバーグ。砂塵に塗れた乾いたバイオレンス演出のスキルがいかんなく発揮されています。眼福です。
何気に意外だったのはランボーを助けるジャーナリスト、カルメンを演じているパス・ヴェガの起用。『ルシアとSEX』や『トーク・トゥ・ハー』等のラテン系ドラマで活躍する女優さんですが、出番は少ないながら多くを語らない悲しみを湛えたキャラクターを見事に演じていました。
こんな作品なのでエンドクレジットで客席を立つ人が多いのが残念なのですが、何気に人名の羅列を眺めているだけで解ることもあります。本作の製作スタッフの名前を眺めているとラテン系とスラヴ系の名前が大量に出てくるのが分かります。なぜスラヴ系が多いかというと本作のロケ地がブルガリアだから。近年『ゲッタウェイ スーパースネーク』、『ワイルド・ストーム』、『エンド・オブ・ステイツ』、『ハンターキラー 潜航せよ』等全然ヒットしてないけど何気にめちゃめちゃよく出来たB級アクション映画はだいたいブルガリアで製作されているんですね。ロケーションもそうですが特殊効果やCGその他人材も豊富なのに安価ということなのでしょう。これからも世間的には鼻を摘まれるような血生臭くて暑苦しい映画が観たければブルガリア産かどうかをチェックすればいいでしょう。一方のラテン名は何気にポルトガル由来が多かったですね。ポルトガルとブルガリアが共同でメキシコ映画を作る、国境も人種も記号に過ぎないというのは本作にも濃厚に滲んだテーマであることはしっかり胸に刻んでおいた方がいいでしょう。