「夢のあとさき」ザ・ピーナッツバター・ファルコン 森のエテコウさんの映画レビュー(感想・評価)
夢のあとさき
それぞれに心の傷を持つ3人の、冒険ロードムービー。
一人は、家族に見離され不本意な施設で時を過ごすダウン症候群の青年ザック。
一人は、献身的にザックの生活支援を考える施設職員のエレノア。
一人は、兄を亡くした責めを抱えながら、その日暮らしから抜け出せない漁師タイラー。
ザックは、何度目かの失敗のあと、同室のカール爺さんの「友だちというのは、自分で選べる家族だよ」という言葉と共に送り出され、念願の外の世界へ。
カール爺さんの部屋で1,000回も見た、ビデオテープに映ったプロレスラー・ソルトウォーがザックのヒーローであり、彼のプロレス養成学校に入りプロレスラーになるのがザックの夢だった。
その夢に向かって一目散に踏み出すザック。
もめ事の最中に偶然出会ったタイラーは、初めザックをあしらうが、お尋ね者同士が引き起こす事件の度に二人の魂の距離は近づき、やがてお互いを認め合う友だちに。
そこへ、ザックを追いかけやっと見つけたエレノアが加わり、3人の旅が始まる。
ザックを施設に戻そうとするエレノアに、タイラーはザックの夢を応援する約束を語る。
「彼が本当に望んでいることを、叶えてあげたい」と。
自分の職務を全うしたいと思いつつ、エレノアも夢を追う二人にいつしか心を寄せていく…
その後も、いくつかの事件を乗り越え、思いがけない形で夢はかない、その先に更なる未来が待っていた。
『スタンド・バイ・ミー』を想わせる、目的に向かって道なき道を進んで行く物語の中に、ハンディをものともせず乗り越えていくバイタリティーと、人と人との出会いによって切り開かれる様々な出来事が新鮮で小気味良い。
人一倍力持ちだったザックが覚醒したことで生まれるクライマックスのファンタジー!
これは、障がいの枠を越えて、色々な思いを背負って日々を過ごしている全ての人の背中を押す物語だろう。
主人公のザックがこだわっていた「善玉(Good man)」と「悪玉(Bad man)」は劇中に沢山登場するが、どの人物の中にも実は両方存在していて、善玉と善玉が共鳴、つまり魂が触れあったとき、夢のあとさきは更なる明るさを持って切り開かれるのではないか、そんな希望を感じられるとても爽やかな作品であった。
選ばれし友だち同士が、新しい家族になっていくだろうと予感させるエンディング。その後に流れるカントリーソングが物語を完結させている。
「づっと逃げ続けていた。孤独な日々。でも、あなたに会って、私に家ができました。神様、もう待てません。づっと逃げ続けていた。孤独な日々…(繰り返し)」
夢のあとさきに待っていたものは、昨日まで他人だった者同士が友情を持ち寄って集う『家族』という新しい宝物だった。