「愛に生きたシュウジ クリエイティブを生むKERA」グッドバイ 嘘からはじまる人生喜劇 野々原 ポコタさんの映画レビュー(感想・評価)
愛に生きたシュウジ クリエイティブを生むKERA
この映画にはふたつのフィルターがあると思いました。
~ ひとつめのフィルター ~
【太宰 治 = 津島修治 を感じられるか?】
太宰は自分の身の上を落とし込んだ“私小説”のような
作品を数多く残しました。
父親との確立、自己の嫌悪と顕示欲…
妻子がいながら愛人と付き合っていたり
ついには女性と入水心中を遂げてしまったり…
実生活の、こと女性関係も題材に
取り入れていました。妻も、愛人も、同様に…
身を滅ぼした“破滅型作家”なんて言われてしまうも
そんな自分に嘘をつけない、不器用で人間臭い。
女性の厄介事を全部背負い込んでしまう…
そんな太宰の人間性をも含めて、
皆さんに親しまれている理由なのでしょう。
本作の原案『グッドバイ』も未完の遺稿ながら
太宰の私生活にまつわるような短編小説…
もはや短編だったのか長編だったのかも
分かりませんが、ひとつ言えることは
田島周二 = 津島修治 であったのだろう…
(※当初、映画用のお話を依頼されていたものを
新聞で連載予定していたとか。
でもどうなっていたのかは誰にも分かりません…)
~ ふたつめのフィルター ~
【 ケラリーノ・サンドロヴィッチ を感じられるか?】
鬼才ケラリーノ・サンドロヴィッチ(以後KERAさん)が
未完なことをいいことに(笑)大胆なアレンジと解釈で
換骨奪胎を試みた意欲的な舞台演劇が本作の屋台骨!
ラブコメを基調としながらも、随所にはっとさせられる
巧みな仕掛けをほどこす手腕にうなってしまう!
とは言え、それは舞台演出込みでの印象。
わたしはKERAさんが手掛けた作品は、生の舞台をひとつ、
映像化になっているものをひとつだけしか観ていませんが
どれもエモーショナルでクリエイティビティあふれる
センスの塊のような舞台だと思いました。
本作の映画はやはり「舞台らしい」場面が
いくつかありました。
ふたりの言い合いだったり、
限られた空間での複数人のやり取りだったり、
誇張気味の表情や演技だったり、です。
これぞ!KERA作品!と言うべき場面展開はありましたが
観客に直に接して、感じてさせて
感性に訴えかけたり、想像で補完させたりといったものは
やはり舞台上で機能していたものなので
映画では多少インパクトが薄くなってしまっている感は
否めないのですが、それでも、
観劇初心者のわたしなんかでも
KERAさんらしさは感じられました。
そんなフィルターにかけなくても
十分に楽しめる映画だと思いますが
でも楽しんだもん勝ちっしょ!