「組織って大変」i 新聞記者ドキュメント おかずはるさめさんの映画レビュー(感想・評価)
組織って大変
望月記者は実にまっとうな職業人である。記者クラブに対して否定的である一方で、その記者クラブに属しているために取材が可能であることを冷静に認識している。質問妨害に対処するにしても、社内調整を欠かさない。
そんな制約の中で記事を書いて取材対象との約束を果たす。方向音痴と集団行動に悩まされつつも『大人』の責任を果たす望月記者の仕事ぶりが描かれている。
といって使命感に駆られて仕事をしているという風でもない。ハードワークのはずなのに、いつも元気で前向きな感じが失われない。天職とはこういうのを言うのだろう。一般人や野党の政治家からも人気があるのがよくわかる。
頼りにならない上杉隆。日常の会話が面白すぎる漫才師顔負けの籠池夫婦。他の登場人物も様々な意味で『魅力』があって飽きさせない。エンタメ成分が多いドキュメンタリー映画だ。
この映画のテーマは重い。
わたしたちは組織の意思を推測し、それと自分のこころざしとを衡量して、今後の行動を決める。でもその組織の意思とやらは、その生成プロセスや確かさが検証されることはほぼない。そんなあやふやなものを前提に重要な決定がなされ、後日の災害の原因となることはまれではない。
この映画は、法執行の本質を忘れた警察官やフリーの記者を排除する官邸、沖縄の住民投票結果を無視する読売新聞を描くことで、組織を重く見すぎる危険について理解させる。わたしたちは物事をよく考え、自分の意思を大切にしないといけない。
終盤、徒党を組む集団同士が声高に主張しあう場面がある。森監督も望月記者もそれに違和感を覚えているようだ。この映画のタイトルには大文字ではない小文字の「i」が含まれている。タイトルに込められた制作者たちの思いにいたると、反射的に忖度し他者に同調しがちな自分を後ろめたく思った。