「ほら泣け!やれ泣け!」映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者 水樹さんの映画レビュー(感想・評価)
ほら泣け!やれ泣け!
ロボとーちゃんや新ドラえもんもそうだけど。
無理矢理泣き所を作るために物語やキャラクターを犠牲にするのは、いい加減やめてほしい。
作品の映像自体は、落書きをモチーフにして落書き自体を丁寧にCGに起こしていたり、セル画調、3D調の映像を綺麗に織り混ぜていて、構図や動き自体もとても素晴らしい。
しかし後半に行くにつれて、その映像もどことなくありがちなクレしん映画の映像に落ち着いてしまい、とても残念ではあった。
問題はとにかくストーリーとキャラクター。
まずどう考えてもユウマの存在が要らない。
なんのために出したのかすら意味不明である。
無理矢理ストーリーや見せ場に絡めてはいたけれど、そもそもあの役割や場面事態が必要だったのか…。
キャラクター自体はニセナナコ、ブリーフ、ブリブリざえもんどれも魅力的な新キャラに、キーとなる宮廷画家と王女も世界観に対して重要なポジションである…はずなのだが、ストーリーが四散しすぎてどのキャラもイマイチ深みがない。
ラクガキングダム自体も最後は、ネットに挙げられた落書きで救われる的な話だが、そもそもその落書きは今回の騒動と全く無関係で、既にあったものなのだから、それでは落書きパワーは得られないのではなかろうか…。
主題になっている落書きに対するメッセージがほとんどないのはいかがなものかと…。
このキャラの深みの無さが、無理矢理な泣かせどころに繋がってくる。脈絡もなくしんのすけが不用意な行為をとり、ピンチを救うために消され、ド派手な音楽で泣かせに走るニセナナコ。
ぶりぶりざえもんも憎まれ口にキレはなく、しんのすけのホラッ感動的なキャラだろ!?的な発言で蔑ろ。
ブリーフも落書き自体の意味や子供達との関係性がきちんと描けてないので、ただたんに泣かせに走っていて、とにかく泣き場が泣かせに走っているのが見え見えで残念さが残る。
ブタの蹄大作戦のオマージュだという人が多いが、ハッキリ言って過去作を馬鹿にするのもほどほどにしてほしい。
ブタのヒヅメはぶりぶりざえもんが、悪魔でぶりぶりざえもんらしく別れ、救いのヒーローになっていくのをキチンと描いている。
なによりもこの作品の酷いところは、クレしんの作品として描かれてきた、友情関係や親子関係がとにかく希薄で中身がない。
ロボとーちゃんの時もそうだが、周りの大人はただただ身勝手でワガママで情けない、そんな主張ばかり。
クレしんの素晴らしさは、特にみさえが常に身を挺し、命をかけて子供たちを庇っているシーンや、情けなくても常に前に出ようとするヒロシの姿にもある。
そして春日部防衛隊や子供達、街の人たちもやるときはやる!どこか根底にある愛情や共感性、協調性のようなものが、作品自体に”人”や”社会”とに対する魅力を感じさせてくれる。
しかし、この作品には野原一家の関係性、春日部防衛隊の絆はもちろん。最後はぶりぶりざえもんだけで片付いてしまい、子供達が描いた落書きや大人たちが落書きや子供達にむける感情等の表現も希薄である。
もちろん作品としては決して悪くはない。
しかしクレヨンしんちゃん映画として面白いかというと、クレヨンしんちゃん映画としては中の下である。
泣かせどころのために蔑ろにされるストーリーやメッセージ、キャラクター性。
泣けるシーンとド派手なお涙頂戴演出があれば、泣けた!感動した!と安易に喜ぶユーザーも多いが、そんな人気俳優くらいにしか売りがない安っぽいメロドラマみたいな作品ではなく。
誰でも楽しめ、わかりやすく楽しい作品の中でも、人間性やメッセージ性をきちんと盛り込み。滲み出たキャラクター性にきちんと共感して、感動できる作品を作ってもらいたい。
EDのレキシは素晴らしかった。