「この監督にクレしんは合わないような…」映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者 因果さんの映画レビュー(感想・評価)

2.0この監督にクレしんは合わないような…

2020年10月1日
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本作のメガホンを取った京極監督といえばかの有名なラブライブ!シリーズの監督だが、本作では彼の特性が良くも悪くも前面化し、結果的に無味恬淡な凡作へと落ち着いているといえる。

シンエイ動画から直々に本作の監督を打診されたとき、彼はクレヨンしんちゃんの世界観を完璧にインストールすべく、まずはテレビアニメシリーズの演出家として習作を重ねた。つまり、彼はかなり真摯な気質の作家なのだ。

実際、本作中におけるキャラクターの語りや行動原理等はきちんと既存作を踏襲しており、その点に関して違和感を覚えることはあまりなかった。この短期間でおおまかな空気感をほぼ完璧に把捉してしまうとは…流石と言わざるを得ない。

また、前述の通り彼はラブライブ!シリーズを大成功へと導いたアイドルアニメ界きっての重鎮であり、したがって本作においてもそのメソッドが遺憾なく発揮されている。

言葉と行為によるカタルシスをさらに増大させる外連味としてミュージカルっぽいシークエンスを挿入したり、「利己と利他」「個人と大衆」といった社会問題的な寓話を展開し、それらに気合いと勢いで解を与えていったりと、彼の監督作品において散見される勢い任せなアイドルアニメ的演出技法が次から次へと打ち出の小槌のように飛び出す。

しかし彼のこの2つの特性(真摯さと強引さ)がうまく折衷するはずもなく、本作はさながら「クレヨンしんちゃん」の世界から丁寧に切り取られた新鮮なキャラクターたちが、アイドルアニメという局限的文法の枠内に閉じ込められているといった具合だった。技巧的な欠陥があるというよりは、単にコードが食い違っているのだ。まるでハイレゾの音源を旧世代型のiPodで聴いているような。

そんなわけで本作は、私の目には「楽しめるけど心に残らない」凡作に留まることとなった。(凡作であるがゆえに「3分ブリブリポッキリ大進撃」みたいな明らかな駄作よりかえって記憶に残りにくいというのがなんともタチが悪い…)

興行収入次第では監督続投という可能性もあるんだろうか…?あんまり合わないと思うんだけどなあ。

因果