「俺の居場所をくれてありがとうに泣けた」水上のフライト カールⅢ世さんの映画レビュー(感想・評価)
俺の居場所をくれてありがとうに泣けた
パラリンピックは実に多くの人の支えを必要とする。
オリンピックは夢の夢。競争が激しい。その淵に手をかけることすら困難。オリンピックを目指して挫折した人は障碍者に手厚くし過ぎではないか? そんなことを思った人もいると思う。
しかし、パラリンピックを目指すことになったアスリートの心情をこの映画はとても丁寧に描いていたし、中条あやみの演技はとても光っていた。
走り高跳びの選手でオリンピックを目指していた女性が、交通事故に遭い絶望の淵をさまよう。
母親役の大塚寧々がそんな娘を案じて、娘が子供の頃に興じたことがあるカヌーの指導者(小澤征悦)に相談する。彼は亡くなった夫の親友でもあった。なぜ、彼が突然家に来て夕食を共にするのか?負けず嫌いの主人公はうすうす察しがついているので、これに反発する。中条あやみはずば抜けた容姿だが、負けず嫌いで根性がある役に非常に向いている。新米看護師役のテレビドラマでも感じた。そのテレビドラマでは元ヤンキーの設定でもあったが、控えめなイケメン男子との相性がいい。今回の颯太役(杉野遥亮)もそうだ。美男美女の設定に魅了されるが、それ以上に交わされる台詞がとてもよい。焚火で焼きマシュマロを作りながら話すシーンは、二人がいかに相手を思い遣り、丁寧に相対しているかがわかる寡黙で静かなシーンだった。彼は障害を持つアスリートの装具や車いすを作る職人。パラアスリートとなった親友をサポートしたが、おそらく骨肉腫の再発で失ってしまう過去を持っていた。遥は超軽量の車いすの存在から、その持ち主がもうこの世にはいないことを察した。
カヌーに固定するフルオーダーの下半身固定のための装具はなんども微調整が必要だ。
NHKのプロフェッショナルでもパラアスリートを支える義肢職人の回を見た。自分の感覚と経験で何度も細かい微調整を行う。アナログ仕事だ。ついつい、不埒な想像が頭をよぎる(オジサンの妄想)。颯太は遥(あやみ)のヒップや太ももを何度もさわって、微調整したに違いない。神経の届かなくなった筋肉は少しずつ痩せてゆき、上半身トレーニングで、体のバランスが刻一刻と変化して、重心が変わる。なんどもなんども、下半身をグリップさせる装具を作り変えるたびに、触れ合い、そして二人はさらに距離を縮めるのだ。すてきだなぁ。役なので、いっこうにやせ細らない遥(あやみ)の足やヒップがまぶしすぎる。本当に馬鹿なレビューです。ごめんなさい。
パラリンピックを目指す覚悟を決めるのも、引退を決めるのもとても大変なことがよく分かった。こんなにも金銭的にも技術的にも自分を支えてくれ、ともに人生を歩んでくれる人々が沢山いるわけだから、おいそれと引退するとかあきらめたとは言えないと思う。何度もパラリンピック出場を目指す人が沢山いるわけが分かったような気がした。自分からはやめるとはなかなか言えないなぁ。
最後の選考大会でのライバルの朝比奈レイカを演じた、冨手麻妙(とみてあみ)は同日公開のホテルローヤルや喜劇・愛妻物語でも出演していた。喜劇・愛妻物語ではうどんの生地を棒で伸ばす女子高校生役で鬼気迫る演技だった。カヌーのパドル、うどんの伸ばし棒と棒状のものに縁があります(笑)。この人も負けず嫌いで、体を張った演技をするひとだ。元AKBらしいが、すごく根性がある。彼女の今後を注目したい。