「【尊大で高慢だったトップクラスの走高跳び選手が、ある哀しい出来事に出会ってしまったが故に、自分の考え方を見詰めなおし、”新しい飛び方”を見つけていく過程を描き出した作品。】」水上のフライト NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【尊大で高慢だったトップクラスの走高跳び選手が、ある哀しい出来事に出会ってしまったが故に、自分の考え方を見詰めなおし、”新しい飛び方”を見つけていく過程を描き出した作品。】
ー最序盤は、やや凡庸。
”走高跳って、最近は背面跳びばかりで、ベリーロールって廃れちゃったのかなあ、背面跳びは、高さは稼げるけれど、本来は着地を安全にするというところまでを走高跳と考えると、ベリーロールだよなあ・・”などと余計な事を考えながら、鑑賞続行。-
■が、藤堂遥(中条あやみ:今作出演に当たり、物凄く努力されたのだろうなあ、と拝察。背筋をピッと伸ばして前を見据え、カヌーを漕ぐ姿が美しい。)が交通事故に遭い、脊髄損傷により下半身不随になってしまうところから物語は大きく動き出し、観る側も大スクリーンに引き寄せられていく。
・遥の走高跳を取材に来た記者とカメラマンが、遥に声を掛けた時、笑顔一つ見せず、”そっけない返事”をして立ち去る遥の姿を見て、
”最早、女王だな・・”
”でも、俺は嫌いだな・・”
ー最後半、遥に声を掛けた際の、二人の遥から感じた事への”真逆の”言葉。
他にも、土橋章宏さんオリジナル脚本の、細かい所への拘りが、作品の質を上げていく・・。ー
・事故後、生きる目標を失って暗い表情で日々を過ごす遥の前に現れた、幼き頃カヌーを教えて貰っていた”無駄に明るい”コーチの宮本(小澤征悦:コミカルな役から重厚な役まで何でも来い‼の貴重な俳優さん。)の突然の登場と、遥にグイグイと”カヌーをやらないか!”と迫って行く姿。
ー最後半、彼の行動を”密かに”お願いした人物が分かる場面は、沁みます・・。-
・”自分の前を走られるのは好きじゃない・・”
負けず嫌いの遥の心に火がついて。
・相変わらず、愛想のない遥が乗る車椅子について、改良すべき点を的確に述べる”不愛想なソウタ兄ちゃん”が、彼が幼き頃経験した哀しき事により、笑顔が少なくなってしまった理由や、スポーツ用車椅子を始め、肢体装着器具を製作をするときの真剣な表情。
-”自分に厳しく、他人に優しく” そして、ソウタ兄ちゃんも遥の頑張りに引っ張られるように表情が豊かになって行く・・。ー
・宮本が運営するカヌークラブに集う、且つては不登校や、ネグレクトに合っていた子供達が明るい表情で、遥を気遣い、応援する姿も良い。
■富士山麓の山中湖で合宿中、湖の上でカヌーを漕ぐ遥の、赤いライフジャケットと碧き水面の美しき色彩の対比。
”お姉ちゃん、空を飛んでいるみたい・・”と呟く女の子。
<信じ難き程の、哀しき事を乗り越えて、目標を見つけ、努力する人の姿は尊崇で美しい。そして、人は五体満足であろうがなかろうが、一人では生きては行けないのだな・・、
という当たり前の事に気付かせてくれた作品。>
■蛇足
遥の事故の後、走高跳びのトップ選手を演じていた女優さんが、どうしても思い出せず・・。エンドロールを見て、「思い出のマーニー」で、声優をやられていた高月彩良さんだった!と分かり、ちょっとホッとする。 中条あやみさんも、その傾向があるけれど、(少女漫画実写化映画出演を否定する訳ではないが)たまには、こういう作品にも出演して頂きたいと、お二人の演技を見て、私は思った・・。