ワンダーウォール 劇場版のレビュー・感想・評価
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今の時代に観て欲しい一本
近年の分断を題材とした作品で最も優れた作品の一本ではないか。大学の自治寮の存続を巡って学生側と大学が対立、議論を続けてきたものの、ある日学生課に物理的な壁ができて以降、学生と大学のコミュニケーションは成り立たなくなる。経済合理性を追求して廃寮を強引に進める大学をなんとか止めようと学生側も連日学生課に詰めかけるも、話を聞くものはいなくなってしまう。やがて学生側は何と戦えばいいのかわからなくなり、学生側の中にも分断が生まれていく。
民主的な自治で寮を運営してきた学生たちが、全く民主的でない態度の大学側に窮地に追い込まれる。話し合いは時間の無駄で経済的に合理的でない、スピードばかりが重視され、学生の声を無視して計画を進めた方が世の中の競争には勝ちやすいのだ。
学問も何もかも、あらゆるものが合理性に吸収されていく世の中を、一枚の壁をモチーフに見事に描いている。渡辺あやの脚本は本当に素晴らしい。
当時、似たような寮に住んでいました
68分なのに120分ぐらいの見応え
大ファンの脚本家、渡辺あやさんの作品なのにテレビドラマ版を見そびれてしまっていたので、劇場版は必ず、と心に決めて見に行きました。
この度2022/7/23は二度目の鑑賞でしたが、68分という短い上映時間の中に詰まった「素晴らしく濃くて深いメッセージ」と「非常に高いレベルの映像音楽表現」を一人でも興味ある方に見て頂きたいと思って紹介します。
この映画は、築100年近くになる大学寮の存続か建替えかの攻防を描く物語ですが、その中に「寮で生活する学生たちの、独特のキャラクターとそこに基づく自治や文化」を鮮やかに、自由に、生き生きと、でも迷いある青き春としての描写が包含されています。
物語を通じて、映画は問いかけます。
長く学生と営みを続け、そして時代とともに在り続けた寮の存在は、「経済至上主義が社会の幸福にとって一番に必要なのか」「私たちが幸せになるためには、この寮で受け継がれていることこそが本当は必要なのではないか」ということを。
この問いは、まさにこの数十年の間に私たちが忘れ去ろうとしている『大切にしなければいけないこと』を思い出させ、映画のメッセージとなって心のなかに降りてきます。
特に、最近の「生産性や効率重視の考え方」や「弱者を切り捨て排除する」、多様性とは嘘ばかりの、世の中の動きに嫌悪感を覚える自分の感覚とこれほどシンクロした映画は久しぶりでした。
脚本を書いたあやさんも「権力側の人が知らないうちにどんどん社会を変えて行こうとする恐ろしさを感じる」と言っています。私も本当にそう思います。
昭和の青春時代を思い出し、あの頃の、今よりも自由闊達な空気を取り戻したいと思いませんか。
若い人なら、そういう時代の空気に触れてみたいと思いませんか。
それは空しい理想かもしれない。でも、理想を追うことは人間のとても大切な在り方というか価値というか、そういうことだと思うのです。
現在はAmazonプライムで見放題メニューで上がっていますので、会員の方はいつでも見れます。
渡辺あやさんの、絶妙な距離感と対話で描かれる素敵な世界(私はこの世界観が本当に大好きなのですが)を体験し、この先の未来をちょっと立ち止まって考えてみませんか。
個人的に、映画を見ていろいろ考えることが好きです。名古屋で「映画サロン」に参加するようになってこの作業は一層濃密なものになっています。これからもエンタメを通じて刺激を受け、考え続けたいと思います。
シン京大吉田寮物語みたいな‼️❓
和敬清寂
確かに胸の膨らみには目を奪われる。しかし、美人であればひよるとは心根の低いこと。吹けば飛ぶように学生の軽さ。この映画の視点にすら疑問を覚えるが、反転して、そこから社会の構図を導き、そして大学と学生の社会的重みを測り自問する鮮やかな展開。
何故学府が軽んじられるようになったかを考えると、かつてはその身分であった自らを裁くこととなる。無論、学生だけの問題だけではない。大学を動かす大人たちの問題、ここで扱われる官僚化や硬直した機構。しかし、自らを振り返れば自己形成はこのモラトリアム期にあり、そういった塊が次の社会や国家を作る訳で、まだ固まっていない彼らを本当に腐らせてよい訳はなく、性根を問われているのは社会全体であることに気づかされる。合理性に寄っかかって何でもディスってる方が下劣。おっぱいに目がいく方が上等(いや見てたのそれじゃないんですけど…)。
古きものを壊して良いか?合理的に考えれば見落としもある。順繰りにねぶってきた古いタオルケットのようでもある。そこに何があるのか直視して、その意味を考える豊かな時間を与えてくれる。真正面から京大に疑問を呈したNHKには拍手喝采。マサラが良かったなぁ。
正義とおっぱいと冷笑と。
若さってこうだよなぁ(フェザー級)といった作品。
名札見てたら「おっぱい見てた!おっぱい見てた!裏切り者!」とか言われちゃうくだりがすごく生ぬるくて、でもそこがこの作品の優れていて、美しいところなんだろうなと思う。
この路線のヘビー級とも言うべきリアルタイムの学生運動ものなんかに出てくる人達と比べたら暴力もないしセックスもないしデモもない。
でも焦燥感や遣る瀬無さはものすごくフィット感があって、とても理解ができる。
ソリッドさは違うけど、そこには確かに若いなりの正義はあるんだよな。俺も屁理屈こねて麻雀やって音楽やってネコに餌やって、成海璃子の名札見るふりしておっぱいみたい。あとやっぱり、みんなで鍋つつきたいっすね。青春バンザイ!
戻りたいけど戻りたくない
眩しい
正義の底を自ら見つめる、知の武器が今日も音を鳴らすように
Netflixのラインアップ落ち前に駆け込みで鑑賞。知の武器を持った彼らの正義を問う様に心が震える傑作。
すごく言語化するのが難しいが、彼らの正義には知が宿っている。論理建てて納得をしてもらえるよう、言論での対立と平和的解決を目指す。それだけに、最初の大学の姿勢に希望を持っていて、その為に挙兵した寮生も多かった。しかし、今は違う。大学は対話を拒み、統治という名の権力で振りかざす。勿論、大学の寮なのだから文句を言われる筋合いなど無いのかもしれない。しかし、聞く耳を持たず実力行使をする様はいつだって制圧の手段にしか写らない。そんな現実をドラマに落とし込みながら照らしてゆく様は圧巻だった。
個々にピントを当てながら、変わっていった近衛寮の行く末を案じる。リーダー格が覇気を失った理由、戦うことを辞めた4年に手段が分からずももがく3年と1年。それぞれ見える景色から意味を照らす。そこが実に知的で奥深い。ワケもなく惹かれたこの寮で、存続したい理由が一体何なのか。青春を刻んだ伝統のため、では片付かない思いをただ馳せることしか出来ないもどかしさ。上手いことフィクションに織り交ぜながら、学生と大学の対立という稀有な問題をジャーナリズムの視点で問い正したNHK京都は本当に凄い。
キャストは意外と知らなかった人が多かったかも。岡山天音に天野はな、若葉竜也は知っていたが、須藤蓮と三村和敬は知らず。あと実際の大学生もいたのかもしれないが、そのドキュメンタリーに似た視点から巡る展開に、問題提起の強い意志を感じる。また、成海璃子による視野の変化、68分の短さながらいかに詰め込みながら主題をブラさないのか。緻密さも魅力的。かなり濃い作品だった。
変えたくないものがあるように、不可侵な領域に寮がある。一方的な制圧によって立場を失いつつある近衛寮の学生たち。しかし、そこには知と個性が無造作に生きている。その壁の向こうから響かせてくれ、彼らの音を。私はそれを応援し続けたい。
寮の生活空間に懐かしさがある。寮にいたわけじゃないけど。 京大、懐...
それでも抵抗するのだ
NHKドラマ「ここにある危機と僕の好感度について」がすごく面白くて、同じ脚本家のこの映画を知り見てみました。
大人の事情や経済合理性に潰される何か大切なものは、
今、社会でたくさん見ることができます。
自分も合理性の加害者になったり被害者になったりしながら、
この問題とは無縁ではいられません。
生きづらいけど大きな流れに逆らえない一個人。
でも流されてばかりでは本当に潰れてしまうから、
この寮生みたいに抵抗して声を上げることが大事なのでしょう。
負け続きでも行動した人には何かが残るのかもしれません。
そうじゃないとやってられない。
悲しさと希望とやるせなさとファイトと、
色んなものがごちゃ混ぜに押し寄せてくる秀作でした。
現代版コクリコ坂
京都の歴史あるボロボロの学生寮、近衛寮の廃寮をめぐって大学側と争う学生たちの話。
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実際に京大の吉田寮という寮があって、それをモデルにした話。なので現実に今、大学側と学生で裁判やっているらしい。実際の撮影では本当の寮を使ってないにしても、こんなボロくて汚いところに人が今でも住んでるのかと結構引くぐらいの汚さ。
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まさにコクリコ坂のリアル版でそこに住んでいる人達も昔の学生運動ような雰囲気。特に寮の中心人物的な三船はなんとなく名前からしても三島由紀夫っぽかった。
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この古くさい雰囲気漂う寮生たちはまだ世の中の仕組みを打ち壊せると信じて頑張っているけど、途中でこの社会の理に気づく。だから学生運動とかの昔の熱い情熱はなくなっていったんだろうなぁと何となく思った。
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でもそうやって情熱を持って戦っている人達がまだ日本にいるのが嬉しい。
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切実を若気の至りに包む作り手の塩梅。その絶妙。
こんな学生生活を送りたかった。
猫
青くて古くて、難しくて単純、そして見ず知らずのはずのその寮の歴史と...
”劇場版”と呼ぶには追撮部分が少な過ぎた佳作
1ヶ月前の先月の7月13日(月)に、イオンシネマ京都桂川まで、ちょうどイオンシネマで使用可能なdポイントが貯まって来ていた事もあり、2018年7月にBSプレミアムで放送された、NHK京都放送局制作による「京都発地域ドラマ」の『ワンダーウォール』という渡辺あやさん脚本の単発ドラマに一部追撮を加えた劇場版の鑑賞に行って来ました。
今更ながらになりますが、あくまでも備忘録的に記録に留めておこうかと思います。
原案自体は、京都大学の吉田寮をモデルにした、百年以上の歴史のある京宮大学・近衛寮を舞台に、本物の吉田寮と同じく”変人の巣窟”と呼ばれ、敬語禁止、ジェンダーフリーのトイレ、全員一致が原則の会議など、学生自治によって運営されている自治寮であり、一見無秩序のようでいて、”変人たち”による”変人たち”のための磨きぬかれた秩序が存在し、一見すごく面倒くさいようでいて、私たちが忘れかけている言葉に出来ない”宝”が詰まっている場所。
そんな自治寮に、老朽化による建て替えの議論が巻き起こるのですが、寮舎を補修しながら残したい寮生側と、他の建物に建て替えたい大学側との対立を軸に描いた物語です。
従いまして、端的に言えば、大学側の一方的な京都大学吉田寮の寮生追い出し問題を題材にしており、本ドラマで描かれていた状況と同じような事が実際に起きていたことはニュース報道などで知ってはおりましたが、確かに大学内における自治問題には違いないのですが、学生側にとっては、学生時代の最大8年間のみの問題であって、ずっと住み続ける訳では無いので、余りにも分が悪いと思って観ていました。
台詞がかなり少ないので、行間を読みながら観ていく必要があるドラマとも感じました。
でも、意外に台詞が少ない割りには登場人物が皆キャラクターが立っていましたので、決してお話に付いていくのに困ることはなかったです。
主人公キューピー(須藤蓮さん)に対して志村(岡山天音さん)が語る理論立てた台詞が、寮生側と大学側の双方を隔てる<見えない壁>の存在の無力感をよく表していたと思います。
この作品が「大きな力に居場所を奪われようとしている若者達の純粋で不器用な抵抗。その輝きと葛藤の物語。」と謳う通り、お話しに結論づけることがなかなか難しいテーマの中で、ドラマ版では、やはり中途半端な終わり方をしていましたが、学生達の寮への愛情がよく伝わるドラマでした。
そこを補うべく、劇場版ではわずか数分ながら<未公開カット>や<近衛寮のその後の物語>の追撮を加え、またクライマックスには、ドラマ版に共感された人々が一同に介して参加するセッションシーンが実現。
後半に進むにつれて、大学側と寮生側の双方に各々の言い分がある状況は、あたかも大袈裟に言えば、中東のパレスチナ自治政府とイスラエルの関係の様にも見えて来て、より普遍的な問題として問題提起なされるべきとも思えなくもないドラマでしたので、つい引き込まれる様なお話しでした。
しかしながらも、自由な校風を標榜してきた印象の旧帝国大学でさえも、学生による自治まで資本主義の合理化の波にあらがうことが出来ない現実はあまりにも悲しすぎました。
私を含む多くの観客の声は、成海璃子さん演じる女性の励ましのメッセージに込められているのではと思いました。
私的な評価としましては、
お話しに結論づけることがなかなか難しいテーマであり、普遍的な問題を採り上げてながらも、そんな中で、少しでも抵抗しようと不器用に頑張る若者たちの姿をよく描いていたと思います。
但しながらも、京都を舞台にしたご当地ドラマでしたが、贔屓目に見ましても、追撮部分があまりにも少な過ぎて、単発ドラマを映画化した劇場版と呼ぶには惜しい映画に感じましたので、五つ星評価的には、★★★☆の三つ星半評価に止まる評価とさせて頂きました。
【旧帝国大学の寮は古くてボロくて建築基準法を満たしていないが、蒼き青年たちを育んだ歴史があるのだ!”人間の幸福にとって必要な何か”を有する「歴史的文化遺産」を守るのは行政の仕事だろう!】
ー私事で恐縮であるが学生時代、大学側との”団交”に臨むときには、決意が必要であった。
何故なら、その”団交”は午後6時から始まり、延々と夜を徹して続いたからだ・・。自分達の”城”を守るために・・。-
■物語は、”ある旧帝国大学の”地区100年を優に超える、吉田寮・・じゃなかった近衛寮が舞台となっている。
1.近衛寮の魅力というか、欠点というか・・を幾つか。
・寮生の多くが謎過ぎる人々である事。
-おじさんは誰ですか?という人が普通に生活している。何回、留年したのかな?-
-旧帝大生は、他の旧帝大の寮に泊まることが出来たという理由も有るかもしれない。”〇〇大学の方が来られました!”という、館内放送も懐かしい・・。-
・寮内に、色んな生き物が徘徊している・・。
・トイレは男女共用。しかし、”ある理屈で”清潔感はしっかり保たれている・・。
-時代より、50年は先駆けた思想と、建物構造。-
・一番、面倒なのは寮の規則を決める際、全員一致である事が大原則である事。で、ごみ捨てルールを決めるのに、延々と議論する・・。
-皆、大好き、延々と続く不毛な議論・・。-
・掃除をしない・・。気が付いた人がする・・。こたつの上、周囲の一升瓶林立状態・・。
・敬語禁止
2.そんな歴史ある寮に、大学側が突き付けた事。
・建築基準法を満たしていないので、建て替え。もしくは寮の撤廃。
-が、実は大学側の本心は・・。-
3.当然、寮生側は学生部に抗議に行くのだが・・、そこには幾つもの”壁”が・・。
-寮の代表者三船と大学の事務員(鳴海璃子さん)との関係性・・。-
<青臭い学生たちの、寮を守ろうとする”全然一致団結しない”姿。
だが、寮をそれぞれのスタイルで深く愛する学生たち一人ひとりの姿が、愛おしく感じる作品。
NHKBSにて2018年7月25日に視聴し、DVDにコピーし、時折見直していた作品が、まさかの劇場公開とは・・。嬉しき哉。>
■蛇足
・最近、気になっている、”千松信也さん”も、この寮に住んでいた・・。
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