劇場公開日 2020年4月10日

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「力のない正義は無力。正義のない力は圧力。」ワンダーウォール 劇場版 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5力のない正義は無力。正義のない力は圧力。

2020年7月12日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

築105年の京宮大学近衛寮。言わずと知れた京都大学吉田寮がモデル。変人の巣窟とよばれ、敬語禁止、ジェンダーフリーのトイレ、全員一致が原則の会議、など学生自治によって運営されている。端的にいえば、馬鹿な学生ばかりなら犯罪の温床になるだろう。しかしそこは、かれらこそ本邦における頭脳の雄山、憂慮は無用だ。むしろ、安寧と堕落にむさぼる快楽こそが彼らの敵。その危惧は、存続交渉の彼らの態度に現れている。かつての学生もこんなヤワだったのか?ってくらいグダグダだ。たぶん、先日、映画で観た三島と討論を交わした学生たちを覚えているからであろう。退寮要求に無関心な学生もそりゃいるだろう。だけど、せめて何人かは一本気な強弁者はいなかったのかと歯がゆい。戦略の見えない抗議に苛立つ。厭だ厭だと駄々を捏ねてばかりじゃなくて、せめて建築関係や自然環境や心理学等々の学友を巻き込んで代案を出せないのかとジリジリした。裏返せば、すでにもう無理だと諦めていたのだ彼らは。利益を求める大学の進める方針に抗うつもりがないのだ。堅苦しい大人たちと隣り合わせに生きている、自由を謳歌する若者たちに過ぎなかったのだ。

鑑賞後、人間の幸福にとって必要な何かって何なんだ?って漠然としながら、久々に渋谷の宮下公園の横までやって来た時、変わり果てた宮下公園の現状を目の当たりにして驚いた。数階建ての商業ビルとなり果てた姿を見て、これじゃない、と思った。屋上に緑地があるが、そうじゃない、と思った。宮下公園は、木陰で一息出来て、側には空き缶拾いのオッチャンが座り込んでいて、気が休まるんだけどそれでいて夜はうら寂しい、そんな渋谷の異空間でなきゃだめなんだよなあ、って。ああここにも経済至上主義の波が、と思いながら、それは僕個人の勝手なノスタリズムであることも自覚した。そうか、近衛寮もこれを求めていながら、世の趨勢に逆らうことの愚を悟ったのか、彼らは。

栗太郎